車の中は沈黙が続いている。
…なんて、切り出したらいいんだろう?
小説のように主人公のような切り出し方が思い浮かばない。
「千雪さん」
昴くんは私の方を向いていた。両手首を掴まれ、座席に押し付けられるように固定される。
「す、昴く…」
「僕では駄目ですか?」
向かい合い、真っ直ぐ目を見る。
「僕となら趣味も合いますし、必ず傍にいます。怖がらせることも絶対しませんし、守って見せます。…千雪さんを泣かせたりもしません」
涙が溢れた。
その気持ちに答えられたら良かった。
───────でも、
「……私…仁くんの事が…」
私はもう、彼を好きになってしまった。
ずっと傍にいてくれた仁くんを…。
「……本当は、わかっていたんですけどね」
そう言って離れ、座りなおす。
「す、ばるく…」
「…泣かせないと言ったのに、泣かせてしまいましたね」
指で涙を拭ってくれた。
「千雪さん…僕は意外と一途なようです。…もう少しだけ、好きでいてもいいですか」
悲しそうな表情。
きっと、泣きたいのは昴くんの方。
何回も頷いた。
少しだけ笑うと、ドアを開けてくれた。
「この先、少し歩くと仁がいます」
公園…?
「会いに行くのでしょう?」
「…っ、!」
「泣いてばかりでは目が腫れてしまいます。…仁に言いたいことがあるのでは?」
背中を押してくれた。
けれど直ぐに昴くんの方を向き笑った。
「好きに…なってくれて、ありがとうございます…」
昴くんも難波先輩も颯太くんも…私にとって大切な人であることは変わりません。


