「俺等には、普段ドキドキとやらはすんのか?」
「え、っと…普段はしてないですけど…その…怒っている時は…」
ドキドキします。
「…普段は仁だけか?」
頷くとまた溜息を出した。
「なんでわかんねーんだ?ここまで言えば分かるんじゃねーのか?」
ボソボソと独り言が聞こえた。
分かる?ここまで?
何か難しい事でも言ってるのでしょうか?
「……強行突破か」
「え?」
難波先輩が目の前に来た。驚いて固まった私を気にも留めず、ソファに二人で倒れ込む。
動けない体。
馬乗りの先輩。
少しだけ顔が近づき、唇が触れそうな距離へ。
「──────…ッ…!」
顔を無理矢理逸らすと先輩が口を開く。
「…これが仁だったら、避けねーだろ」
仁くん…だったら?
思い出したのは、文化祭の時の事。嫌だって感じなくて、頑張れば避けられたのに避けなかったあの日の事。
「俺だけじゃない。颯太、昴…他の奴でも退けるんじゃねーのか?」
──────退けていたと思います。
想像しただけで嫌だと思ってしまったのだから。
「名前を呼ばれて嬉しいのは誰だ?ここまでされて嫌だと思わないのは誰だ?真っ先に浮かんだのは誰だ?」
”千雪”
「一人だけいるだろ」
「ッ───…、私…」
仁くんの事が好きなのですか…?


