「気を付けて帰れ」
なんて言うけど、目の前が家。
気を付けて帰る必要なんてないと思うんですが…。
だけど、どうしよう。
もう着いてしまった。
最初はあんなに何を話していいかわからないって感じだったのに。途中から”あと少しでお別れ”とばかり考えていた。
「あ、あの…」
振り返り帰ろうとした仁くんの手を掴んだ…のはいいが、何も考えておらず。何を話したらいいのかわからない。
ど、どうしましょう…?思わずとは言え…何も考えてなかっただなんて…!
「どうした?」
「え、えっと………あ、こ、ココア!」
ポケットにしまったまだ飲んでいないココアの缶を取り出す。
「お礼言いそびれたので…」
「ああ、構わない。早く飲めよ」
頭をポンポンされた。
「じゃあな」と言いながら行こうとする仁くんの手を更にぎゅっと握った。
「も…もう行ってしまうんですか?」
そこまで言ってハッとした。
左右にブンブン首を振る。
玄武の皆さんに何かあったばかりだというのに。
そんなの忙しくないわけがない。
私はまた自分の事ばかりだ。


