車の中で、仁くんは隣でずっと携帯とにらめっこしていた。眉間にしわを寄せながら。
…家に帰ったら朔也くん、いるのかな?
いたらどう接すればいいのかな。今まで通りなんて、出来るのかな…。
「何かあったのか?」
いつの間にか携帯から視線を逸らしていた仁くんが言った。
「な…何も、…」
──────言わなきゃ。
本当は朔也くんの事言わないと。聞かないと。美琴さんの事も全部。
だけど、もし…もし朔也くんが別の族の総長だったら…私はどうしたらいいの?
「……もう…着いたので…」
怖かった。
本当の事を知ることが。
それに頼ってばっかりは駄目だと思った。
自分で何とかしてみないと。
みんなだって頑張ってる。それなら私も頑張りたい。
「待て、途中まで送る」
ドアノブに手をかけた後ろから手が出てきた。
私の手を掴み、優しい口調。
「っ…だ、大丈夫です!一人で…」
「俺が送りたいんだ…ダメか?」
後ろから耳元で囁く声がする。
…っっ、
断らなきゃって分かってる。もし朔也くんが見ていたら?とか考えている。だけど、だけど少しだけ。もう少しだけ。
「は、い…、」
仁くんの傍に居たいと思った。


