「…じんくん、」
服を引っ張ると仁くんはハッとした顔をした。
どうやら一瞬私の事を忘れていたようだ。
「悪い…こんな話…、」
「大丈夫です。それより…玄武の皆さんの怪我は大丈夫でしょうか…」
昴くんが怪我した時の事を思い出す。あの時は仁くんに殴られていたけれど。
どちらも痛そうだった。
あんなに腫れるなんて知らなかった。
「…千雪ちゃんって優しいのな」
と、難波先輩が言った。
「え?」
「集会の時の事忘れたのか?」
集会の…確かに玄武の総長さんは怖かったです。
昨日も無理矢理引っ張られましたし…。
左右に首を振った。
「いいえ。でも…病人を恨むことなんてしたくありませんから」
目を見開く難波先輩。
だけどすぐに声に出して笑った。
釣られて昴くんと颯太くん、仁くんまでも笑う。
え?ええ…??
「白藤ってほんといい奴だよな!」
「そ、そんな事無いよ…!」
「千雪さんは誰にでも優しく出来る心の綺麗な女性ですね」
「え…!?す、すばるくん何言って…!」
「昴の言う通りだな。千雪ちゃんってすげーよ」
「そ、そんな事ありません…!!」
どうしてそんな事ばかり言うんですか…!?
「千雪、」
微笑む仁くん。
「かっこいいな」
初めて言われた言葉だった。誰からも言われた事のないその言葉が凄く嬉しかった。
「千雪、今日はもう送る。悪いな」
私の手を引き立ち上がった。
いつもより早い時間だ。
だけど、玄武の事があるのだろう。
私は小さく頷く。
「千雪さん、また明日」
「白藤!気を付けて帰れよ───!」
「んじゃな、千雪ちゃん」
そう言う三人と、頭を下げる人を横目に部屋を出て行った。


