大きな声でそう言うと、色んなバイクの音が遠くへ消えていった。ピンクの人は、バイクを路肩に止めるとポケットから煙草を取り出す。


風に乗って灰色の煙がやってくる。
咳き込みたくなるのをグッと我慢した。


「ここが何処か分かって来てんのか?」

「………え?」


ここ?…ただの土手だと思いますけれど…。


「麒麟と朱雀の境界線」


指を差す先には黒い線が引かれていた。
黒いスプレーで乱雑に引かれているみたい。

私はその上に立っている。


「お前のいるその後ろが朱雀の縄張り。そっから前が麒麟の縄張り。お前は今その中間にいる」


そう言ったピンク髪の人は麒麟の方に立っていた。


「お前、自分の立場が分かったのか?」


立場……、


「麒麟に捕まる為に来たんだろ?」


俯いて左右に首を振った。
そんなつもりなんて全く無い。

ただ逃げ出したくて。チクチクする胸の痛みを消したくて走り出した。それでもまだ収まらない。


「なら早く帰れ」


…っ、え?


恐る恐る顔を上げると、しっしっと手を振っていた。

…集会ではあんな事を言っていたのに。
どうしてそんなにあっさり……?

そんな気持ちは次の言葉で消えた。



「お前は使えるかも知れねぇからな。交渉かもしくは人質か…その為の道具だ」



…道具。それで朱雀の皆さんの役に立てるのなら私は───────、


冷たい風が頬を掠めた。
ふわりと舞う髪と真っ直ぐ見つめる瞳。




「………は…?」




咥えていたタバコは地面に落ちる。
ハッとして私は顔を逸らし前髪を整えた。

…っ、目が合った。怖い。


一歩下がってから深々と頭を下げた。



「あの…教えていただきありがとうございました。えっと…そ、それじゃあ…」



手を掴まれた。