────…なんだろう。
「よく…分かりません」
「へぇ~、じゃあ、千雪は居座ってるだけなんだぁ?」
そうかもしれない。何もできず、守ってもらってばかり…助けてもらってばかりだから。
でも、離れたくない。
あの場所から…。
私から離れたくなくなったんだと思う。
離れたかったはずなのに…。
「ねぇ、千雪には大切な人っているの?」
宏くんが笑う。
大切な…人。
「…選べません」
「んまぁ~、そーだよねぇ。僕だって選べないしっ♪」
にしし、と笑った。
…どうして、そんな事聞いたんだろう。
不思議でじっと見ていると、バチッと目が合う。
「も~…怒ってるの?千雪こわぁい」
怒ってはないですけど…なんだか変わった人。
宏くんがキャンディを思いっきり噛んだ。
ガリッと音が響く。
「でもね、千雪は別なんだ。すぐにその選択をすることになるよ」
選択…?
「二人いるでしょ。千雪には」
「っっ…!!」
ドンドン、外からドアを叩く音がした。
「白藤ー!!俺だぁあ!文月颯太だぁ!開けてくれぇ!!」
吃驚したけど、声も話し方も颯太くんみたい。
「そ、うたくん!待って。今開けるから…!」
開けようとして、一瞬止まる。
宏くんの事を思い出したから。
だけど、振り返ると誰もいなかった。
まるで夢を見ていたのかと思うぐらい、跡形もなく消えていた。
だけど…持っていたキャンディを見つめる。
これがここに確実に彼がいたという証拠だった。
「白藤ー!!!!開けてくれえええ!!入れなぁぁい!!」
外から叩く音がさっきよりも強くなった。


