颯太くんは深呼吸をした。
「今から言うのは、全部独り言だから」
「え?」
隣で颯太くんが微笑んだ。
唇を噛み締め、黙って頷く。
「俺…親父の愛人の子供なんだ。
お袋が死んで引き取られた。あの家に一人で住むように言われた。
頭の悪い俺に出来るのは迷惑を掛けない事だけだって言われた。お前を引き取ったのはお袋に似て容姿が良いからだって、それを使っていいとこの娘と結婚させるためだって。
その為だけに引き取ったって言われた。
だから反抗した。毎日喧嘩して、警察の世話なって…でも親父は金で全部揉み消した。迷惑掛けたくてもなんも出来ない。反抗した分だけ金が掛かる。でも親父からしたらはした金で、俺は…何も出来ない。
もういっそ、人殺しでもしてやろうかって思ってた時に…仁さんに出会ったんだ」
颯太くんの表情が柔らかくなった。
「俺、入学一発目に喧嘩したんだけど…朱雀って名乗ってるだけのチンピラ連中で、吹っ掛けて来たから返り討ちにしてやったんだけど…後で仁さんに呼ばれて。
絶対喧嘩になるって思ってたのに、行ってみたらあの時のチンピラがボコボコで。
仁さんは頭を下げてくるし、本物の朱雀の奴等は喧嘩強いなって褒めてくれるし…仲間にならないかって誘って来るし。
…俺、初めて褒められて。初めて認められて嬉しかったんだ。
初めて俺を俺として必要とされたんだ。
仁さんに…朱雀の奴等に、」
大きな雫が落ちた。
「何泣いてんだよ、白藤。ただの独り言だって言ったろー?」
落ちた涙は床を濡らした。
「……ごめんなさい」
「大丈夫だって。俺今幸せだから」
「でも…、」
「それにさ、俺仁さんに言われて証拠ってやついっぱい撮ってるんだ」
そう言って笑った。
携帯を取り出して左右に振る。
「この中と昴さんが持っててくれるやつに俺がされた事ぜーんぶ入ってる。だから高校卒業したらこれ使って逃げるんだ。周りの目、気にするあの人達なら金も包んでくれそうだしな」
…颯太くん。
「だから俺は大丈夫!だから…泣くなよ白藤」
セーターの袖で目尻を拭いてくれる。
「俺仁さんのお陰で今こうしてられるんだ。だから仁さんの大切な人は…俺にとっても大切な人だ」
「…ありがとう。颯太くん」
真剣な目で言う颯太くんに胸が熱くなった。


