白雪姫は寵愛されている【完】



その状態のまま砂浜に戻って来ると、先輩がゆっくりと降ろしてくれた。


砂が身体に纏わりつく。
足の裏からお尻まで全部砂だらけになる。



「……仁に見られる前でよかったわ」

「あ、あの…ごめんなさい」



折角教えて下さったのに…無駄にしてしまいました。



「俺も手を離したからな。悪かった」



そう言うと、頭を撫でてくれた。

子供扱いみたい…だけど先輩は優しいから好きです。



「…意外と着痩せするタイプなのな」


「せんぱい?」



女の子座りの私を、見下ろす先輩。
目を細め、頬を赤らめている。



「……なんでもねぇよ」



そう言って、私の隣に座った。



「…千雪ちゃん、俺たち以外の奴にそんな恰好なるなよ?すげーことなっから」


「すごい…こと、ですか?」



…やっぱり似合わないって事でしょうか?



「すみません…醜くて…」


「ちげーよ。似合ってるって…。ただ…いや、なんでもねぇ」



顔を逸らしたまま、また頭を撫でてくれた。




「…よりにもよって…、なんで俺が好きなの選ぶんだよ…クソ…」




最後に何か言ってる気がした。
でも…上手く聞き取れなかった。


聞き返そうとした時、先輩は立ちあがった。



「ちょっと待ってろ」



そう言うと、木が生い茂っている場所の方向に歩いて行く。



い、行っちゃった。


…幻滅、したかな。
私が泳げなさ過ぎて。


10秒も水の中に入れなくて、バタ足も満足に出来なくて…。折角付きっきりで泳ぐ練習してくれたのに。私…全然泳げなかった。



───────…花の匂い?



「千雪ちゃん、顔上げてみ?」



顔を上げると目の前に、赤いハイビスカスがあった。


本物、ですか?


匂いもあるからきっと本物。
…初めて見ました。


とても綺麗…だけど。



「これ…どこで…」


「取ってきた」



指さしたのは、森っぽい場所。


……勝手に取ってきて良かったんですか?