ぼくらは群青を探している

「……蛍さんの一個上のOBさん、ですか?」

「そうそう、去年卒業したばっか」

「てか君は? なんのワケアリ?」

「……親がいない」

「あー、なんかそういう感じする。大丈夫、寂しくない?」


 ポン、と煙草を挟んだままの指が肩に乗った。私の肩の骨を丸ごと包み込めるくらい大きな手だった。その指の間で、ジジ、と煙草が燃える。いつかの新庄の手と、同じだった。


「……先輩達の名前、聞いてないですけど」

「あー、そだね、俺は山田で、こっちが豊津(とよつ)

「……下の名前は?」

「ん? ケータと、トールだけど」


 それがどうかした? 群青のOBだというその二人は歯を見せて笑った。私の肩に乗っていた手は再びその人の口元に戻った。

 ケイタとトオル。山田慶太、山田啓大、山田敬汰。とよつ、豊津。豊津亨、豊津徹、豊津透……。音で聞いた二人の名前を何パターンかの漢字に変換する。


「……先輩達、この間のOB会に来てくださらなかったんですか。夏休みに入る前、七月の二週目くらい」

「もしかしてなんか疑ってる?」OB会で見てないし名前も聞いた覚えがない、そう言われたと思ったらしく「ごめんね、そんとき普通に仕事だったからさ、抜けられなかったん──」

「え、ちょっ──」


 陽菜の腕を掴んで、隣にいたカップルにぶつかりながらその背中に隠れた。


「チッ、オイ!」


 怒号を背に、そのまま、参道を埋め尽くす人の中に飛び込むように駆け出す。同じ下駄(げた)とはいえ、背後の陽菜も(つまづ)いたり転んだりする気配はない。陽菜の運動神経に感謝だ。


「なに、どうしたの英凜!」

「あれ嘘! 七月二週目って、蛍さんが勉強会やってたときだから、現役が顔出すようなOB会なんて絶対やってない!」


 浴衣の中に(まぎ)れるために、できるだけ人込みの真ん中にもぐりこんだ。迷惑そうな顔をされるので「すみません、すみません」と謝りながら、人の波に逆らわず、ただ着実に追い越してさっきの二人から逃れる。背後の陽菜は「マジ?」と少し(あせ)った声を出した。


「でも分かんなくない、終わった後にやってたのかも」

「卒業一年目の群青の先輩にヤマダケイタとトヨツトオルはいない」

「はあ? なんでお前がそんなこと知ってんの」


 勉強会の初日、九十三(つくみ)先輩が「集金に使った」と言って渡してくれた名簿は、しわくちゃで少し古かった。几帳面(きちょうめん)にパソコンで作られた名簿だった。ご丁寧に学年も書いてあった。そして、蛍さん達の名前は「二年」と書かれた紙に並んでいた。

 ああ、去年からの名簿なんだな、とすぐに分かった。能勢さんの名前も「一年」の中に載っていたし、それこそ留年したという服部先輩の名前は「二年」に載っていたから。だから「三年」の中には、蛍さん達の一個上の群青のメンバーの名前が書かれていた。何の気なしに、「三年」と書かれた名簿にも目は通した。

 「三年」の名簿に山田と豊津はあった。あったけど、二人の名前の文字列は「山田明紀」「豊津良介」。


「群青の今の三年の一個上、卒業一年目の先輩達の名前は覚えてるけど、その人達とは名前が違ってた。さすがに名前を間違えるってことは、群青関係の人じゃないのは間違いない。どこかのチームのOBかどうかまではわからないけど、深緋の人なのかも」

「あ、群青のOBだってわざわざ言うってことは敵チーム……?」