鬼の首を取ったように叫ぶ九十三先輩に、蛍さんは眉間に深い皺を寄せ、瞑目したままハリセンで肩を叩いている。たかが海へ行く程度のことでそんなに騒ぐ理由が分からないので、きっと私が聞いていないうちに別の遣り取りがあったのだろう。
そんな騒ぎを聞きつけた能勢さんがトントンと上段から降りてきて「なんですか、海?」と瞬時に話題を拾いながら私の前の机に手をついた。
「いいですね、梅雨明け、テスト終わりの土曜とか。誰が行くんですか?」
「俺らと胡桃ちゃんと三国ちゃん」
俺ら、と言いながら九十三先輩は他の先輩達を示した。当然桜井くんと雲雀くんも入っていて、桜井くんは「俺も?」とキョトンとしているし、雲雀くんも眉を跳ね上げる。
「俺なにも言ってませんけど」
「へーえ、じゃあいいの、俺らだけ三国ちゃんと胡桃ちゃんの水着見ちゃうよ?」
「どうせ三国はお約束でスク水以外持ってないですよ」
九十三先輩の煽りには返事をせず、雲雀くんは「なあ、三国?」と私に顔を向けた。
「いやさすがにそのお約束やったら致死の力でぶん殴る。男女不平等主義の俺でさえ許さねぇ」
九十三先輩の隣では蛍さんがハリセンの準備をしている。能勢さんは「まさか、そんな天然記念物女子高生いないですよ?」と笑う。
「ね、三国ちゃん」
「水着はスクール水着しかないです」
「…………」
「大丈夫です、海にスクール水着で行くなんてことは言い出しません。私が着るのはティシャツと短パンです」
「三国ちゃんだめ! それは本当にだめ!!」
蛍さんより誰より、九十三先輩が素早く反応すると共に激しく首を横に振った。
「なんで海で脱がない!?」
「字面やべーな」
その蛍さんの声は、牧落さんが初めて勉強会に来たときに似ていた。
「日焼けして痛いじゃないですか」
「日焼け止めってものがあるだろ!」
「それを塗る手間を考えると衣服で皮膚を覆うほうが楽でしょう」
「あーっもうやだ! 昴夜のバカさと足して二で割れよお!」
九十三先輩は、脳味噌を掻き毟りたいかのようにアッシュの髪をぐしゃぐしゃっと掻き混ぜた。ここまで欲望に忠実に嘆かれると下心の嫌らしさがない。
そんな下心に日々忠実な九十三先輩はさておき「……三国ちゃん、女子高生が海でティシャツ短パンはマジでないよ」能勢さんがいつもの笑顔を硬直させていた。
「……でもスクール水着と違って着てる人はいますよね?」
もちろん圧倒的に水着の人が多いには違いないけれど、ティシャツを着ている人だって見かけるのだから、〝マジでない〟なんて言われる筋合いはない。
「いる……けどねぇ……。どう思います、永人さん」
「……俺はなんも言わねーぞ」
でも蛍さんの足は小刻みに揺れているのできっと苛立っている。どうしても……水着を着ろと……?
「……スクール水着を着るのが変だということくらい分かります。着たくないです」
「スク水着ろなんて言ってねーだろ! どこのマニアだ!!」
返事を間違えてしまったせいで怒鳴られた。多分本気で怒鳴られたのだと思う、そのボリュームには思わず身を竦ませてしまったし、他の群青メンバーも何事かと振り向いた。
そんな中で、牧落さんが悲しそうというか切なそうというか、なんとも分からない顔をする。
「……英凜、水着買いに行こ?」
そんな騒ぎを聞きつけた能勢さんがトントンと上段から降りてきて「なんですか、海?」と瞬時に話題を拾いながら私の前の机に手をついた。
「いいですね、梅雨明け、テスト終わりの土曜とか。誰が行くんですか?」
「俺らと胡桃ちゃんと三国ちゃん」
俺ら、と言いながら九十三先輩は他の先輩達を示した。当然桜井くんと雲雀くんも入っていて、桜井くんは「俺も?」とキョトンとしているし、雲雀くんも眉を跳ね上げる。
「俺なにも言ってませんけど」
「へーえ、じゃあいいの、俺らだけ三国ちゃんと胡桃ちゃんの水着見ちゃうよ?」
「どうせ三国はお約束でスク水以外持ってないですよ」
九十三先輩の煽りには返事をせず、雲雀くんは「なあ、三国?」と私に顔を向けた。
「いやさすがにそのお約束やったら致死の力でぶん殴る。男女不平等主義の俺でさえ許さねぇ」
九十三先輩の隣では蛍さんがハリセンの準備をしている。能勢さんは「まさか、そんな天然記念物女子高生いないですよ?」と笑う。
「ね、三国ちゃん」
「水着はスクール水着しかないです」
「…………」
「大丈夫です、海にスクール水着で行くなんてことは言い出しません。私が着るのはティシャツと短パンです」
「三国ちゃんだめ! それは本当にだめ!!」
蛍さんより誰より、九十三先輩が素早く反応すると共に激しく首を横に振った。
「なんで海で脱がない!?」
「字面やべーな」
その蛍さんの声は、牧落さんが初めて勉強会に来たときに似ていた。
「日焼けして痛いじゃないですか」
「日焼け止めってものがあるだろ!」
「それを塗る手間を考えると衣服で皮膚を覆うほうが楽でしょう」
「あーっもうやだ! 昴夜のバカさと足して二で割れよお!」
九十三先輩は、脳味噌を掻き毟りたいかのようにアッシュの髪をぐしゃぐしゃっと掻き混ぜた。ここまで欲望に忠実に嘆かれると下心の嫌らしさがない。
そんな下心に日々忠実な九十三先輩はさておき「……三国ちゃん、女子高生が海でティシャツ短パンはマジでないよ」能勢さんがいつもの笑顔を硬直させていた。
「……でもスクール水着と違って着てる人はいますよね?」
もちろん圧倒的に水着の人が多いには違いないけれど、ティシャツを着ている人だって見かけるのだから、〝マジでない〟なんて言われる筋合いはない。
「いる……けどねぇ……。どう思います、永人さん」
「……俺はなんも言わねーぞ」
でも蛍さんの足は小刻みに揺れているのできっと苛立っている。どうしても……水着を着ろと……?
「……スクール水着を着るのが変だということくらい分かります。着たくないです」
「スク水着ろなんて言ってねーだろ! どこのマニアだ!!」
返事を間違えてしまったせいで怒鳴られた。多分本気で怒鳴られたのだと思う、そのボリュームには思わず身を竦ませてしまったし、他の群青メンバーも何事かと振り向いた。
そんな中で、牧落さんが悲しそうというか切なそうというか、なんとも分からない顔をする。
「……英凜、水着買いに行こ?」



