拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「うん、おいしい!」

 少し焦げ気味のクロックムッシュをひと口食べた東雲さんが、すぐに声を上げた。

「カリッと焼けたパンの甘さと、とろりと蕩けるチーズとハムの塩気がほどよいね。くせになりそうだ」
「そうですか」

 私は彼の方は見ずに短い返事を返すと、急に隣が静かになった。私のおとなげない態度にあきれているかもしれないと思いつつも、横を向く気にはなれず、黙々とフォークを口に運ぶ。

「美緒はどんな顔をしていてもかわいいね」
「かっ! ……からかうのはやめてください。あと、勝手に触れないという約束を忘れないでください」

 不意に感じた温もりの正体をはっきりと頭で理解したのは、出来立てのクロックムッシュを並べたダイニングに、彼と隣り合って座った直後だった。

 気づいた瞬間カッと全身が熱くなり、背中に変な汗がにじんだ。
 なんでこんなことを、と頭がパニックだったせいで、いつもは向かい合わせに座る彼が、私の隣の椅子に腰を下ろしたことにまったく気づかなかった。

 結果、八人は優に座れる広々としたダイニングテーブルに、なぜかふたりで横並びになって遅めの夕食を取っている。