拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 前のめりな返事に目を見張ると、彼はばつの悪そうな顔で目を泳がせた。

「ごめん、僕の分があるかと期待してしまった」

 わかりやすくしゅんとしょげた様子がなんだかかわいくて、思わずくすっと笑う。

「お口に合うかどうかはわかりませんが、よかったら一緒にいかがですか?」

 言っているそばから、彼の顔がみるみる明るくなっていく。

 そんなに期待に満ちた眼差しを向けられると、かえって困ってしまう。名前こそおしゃれな感じがするが、高級レストランの料理を食べ慣れている彼に披露できるようなものではない。

 とはいえ、今さら発言を取り消せないので、せめて焦がさないようにしようと、フライパンの中をよく見張る。横から「ありがとう」と聞こえたけれど、うつむいたまま「いえ」とだけ答えようとしたそのとき。

 頭の横――耳の上あたりに、ふわっと温かく湿ったものが一瞬触れた。

 え……? 今のはなに? いったいなにが起きたの?

 脳内で疑問符がぐるぐると回り、その場に立ち尽くす。

「美緒、そろそろいいんじゃないかな?」
「あ!」

 手元を見るとパンの端が焦げている。慌てて火を切り、いつの間にか用意されていたお皿に盛りつけた。