拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 言われて初めて周りを見回した。てっきり自分用の部屋だと思っていたが、ダイニングだった。
 そうだ、夕飯をなににしようかと思いながら腰を下ろしたきり、座り込んだままだったのだ。

「ご、ごめんなさい、帰ってらっしゃると思わなくて……あっ、帰ってきたらだめという意味じゃないんです……ちょっとぼうっとしていて勘違いを……」

 きちんと弁解しようと思えば思うほど、しどろもどろになってしまう。

「落ち着いて、美緒。よくわかったから大丈夫」

 触れるか触れないかぎりぎりのところで、そっと頭を撫でられた。私が嫌がらないかどうかを気にしているのかもしれない。

 じっと見上げていると、彼がさっと手を離した。

「嫌だった?」
「いえ……」

 首を左右に振りながら、やっぱりと思った。

 東雲さんは決して強引ではなく、不必要に近づいてきたりもしない。それなのに気づいたらそばにいて、いつの間にかそれが嫌ではなくなっている自分がいる。

 彼の押しに流されて受け入れた避難生活ではあるけれど、最初に危惧したことはなにもない。思ったよりも早くこの生活になじんでいる自分にも驚く。