拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 盗み聞きをしているわけではないけれど、なんとなくこれ以上聞いてはいけないような気がして、なにか理由をつけてこの場から離れようと思う。

「智景さん、ところでこちらの方は……」

 突然支配人が私の方を見たので、うわっと思った。
 またしても東雲さんとの間柄をどう表現すればいいのかわからずに焦っていると、東雲さんが「ふふっ」と意味ありげに笑った。

「彼女は滝川美緒さん。僕の運命の人ですよ」
「しっ……」

 東雲さん!

 思わず叫びそうになったけれど、動揺のあまり声が出なかった。

「それはそれは……! 大変おめでとうございます。滝川様、今後とも弊店をご贔屓によろしくお願いいたします」

 すぐさま大きな笑顔になった支配人の大歓迎に、違います! と訂正したい気持ちをグッとこらえる。ここで私が否定したら東雲さんの面目が潰れてしまう。それは避けたい。

 苦情は後でしっかり言わせてもらいますから……!

 心の叫びをぐっと飲み込み、「はい」と返事をした。