拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「わ……私は結構ですのでご自分のものだけ買われては」

 本音を言えば、自炊派の私にとって茶碗がないのは不便である。けれど何カ月もあそこで暮らすわけではない。数日間なら別のもので代用すればいいし、どうしても必要だと思えば均一ショップで間に合わせることもできる。そもそもこんな贈答用の一級品を普段使いに買うことなんて、私には無理なのだ。

 まさか私の茶碗を選ぶためにここに来たなんて言わないわよね……。

 東雲さんが『寄り道』と称して私を連れてきたのは、都内にある有名百貨店『津雲屋(つくもや)』だった。

 津雲屋は、江戸時代に営んでいた呉服店が明治時代に百貨店として店を出すようになった老舗中の老舗だ。その一号店がここだというのは、東京のことに疎い私でも知っている。

「せっかくだから湯飲みもセットにしようか」
「い、いえ! 私には不必要ですからご自分のものだけにしてください」

 茶碗の箱を持ったまま、隣の湯飲みセットにも手を伸ばしかけるので、慌てて止めに入った。彼の腕を両手でつかんで首を左右に振ると、彼は「僕のだけ買ってもなぁ」と渋い顔になる。