拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「食事だけじゃなくて、映画にも連れて行ってやっただろう」
「それはっ……長澤さんが頂いたからって……」

 先週、仕事の後に映画に誘われた。

『ペアチケットがあるから付き合ってもらえないかな』

 他に行く相手もおらず、このままだとせっかくのチケットが無駄になるからと言われて、それならと、一緒に行くことにした。

「そんなの口実だって、普通わかるだろう?」

『普通』と言われても私にはよくわからない。これまでの二十六年間、どんなに努力しても恋をすることができなかった。

 長澤さんにはあらかじめそのことを告げていた。
 彼も『友人として』と前置きをしていたため、あまり断るのも申し訳なくなり、何回かに一度は誘いに応じていた。
 食事代は、私が自分の分は払うと何度言っても、彼は『誘ったのはこっちだから』と言って受け取ってくれなかった。

『おごられてばかりは気が引けるので、もう食事にはお付き合いできません』

 きっぱりとそう宣言した私に、長澤さんは声を上げて笑った。

『じゃあ次回はごちそうしてもらおうかな』

 彼が口にしたその『次回』が今日だった。