拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 隣からそっと手を握られる。

「やっとあの夜の続きだな」

 艶めいた声に体温がじわりと上がった。これから訪れる甘やかな時間を期待するかのごとく、心臓がコートの下で飛び跳ねはじめる。胸がはちきれそうなほどの幸福感に、我知らずため息をもらしたら、彼が私の耳に顔を寄せてきた。

「たとえ神様だろうと二度と引き離せないよう、ふたりで固い契りを結ぼうか」

 かっと顔が熱くなる。つないだ手を、指をからめるようにして手を握り直された。
 彼が肩を揺らして笑う気配に、顔を上げなくてもからかわれているのだとわかる。

 一矢報いる――とまではいかなくとも、いつまでも受け身では彼の妻は務まらないと気づいたばかりだ。

「わ……たしも、がんばります」

 思い切って手をぎゅっと握り返してみた。――が、なんの反応もない。
 見当違いなことを言ってしまったのかと冷や汗が吹き出して、「あのっ」と慌てて顔を上げる。瞬間、唇に温かなものが触れた。

「……っ」
「そんなにかわいく煽ったら、どうなっても知らないよ」

 脅すような言葉とは裏腹に、困ったように眉を下げた彼が甘く見つめてくる。胸がきゅんと高鳴って、無言でうなずいた。

「……は今度に……ようかな」
「え?」

 ぼそっとつぶやかれた言葉が聞き取りづらくて振り仰ぐと、彼は大きな息を吐いてから再び歩きだした。

 駐車場に止めた車を目指す彼の足取りが、心なしか速くなる。つないだ手とほてった頬を、春風がひと撫でしていった。



 おわり