常務室を出た後、智景さんは私をいつもの送迎車に乗せた。行先を訪ねると「実家だ」と言われる。
まさか本当にこれから実家に⁉
焦ったが、私が尋ねるより早く、この数日間のあれこれを、どうして自分に相談してくれなかったのかと叱られた。
そうこうしている間に心の準備ができないまま、寺社仏閣か武家屋敷かと見紛うほどの立派なお屋敷にたどり着く。
お手伝いさんに案内され、日本庭園の見える長い廊下を智景さんについて歩いた。
お手伝いさんが障子越しに部屋の中に向かって声をかけ、「どうぞ」と返ってきたところで障子を開ける。十畳ほどの和室に万由美さんがいた。
彼女は、先日見たときとは違う着物を着て、掛け軸の飾られた床の間を背に、筆でなにかを書いている。智景さんが座卓の前に腰を下ろしたので、私もそれに倣った。
「いったいどういうことですか」
だしぬけに切り出した智景さんに、万由美さんは返事どころか顔も上げない。半紙に向かって小筆を動かしている。
「どうして僕がいないときに美緒に会いに行ったりしたのですか」
智景さんのさらなる問いに、万由美さんが一瞬だけこちらをちらりと見る。目が合ってどきりとする。
「言っておきますが、美緒はなにも言っていませんよ。むしろ、どうして黙っていたのかとこちらから問い詰めたくらいです」
私が彼の母親に会ったことを、万由美さん本人から聞いたのだとばかり思っていたけれど、どうもそうではないようだ。



