拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 常務室にひとりになった久保田さんは、常務デスクの椅子にどすんと腰を下ろし、突然声を上げて笑いだした。

『これであの女もおしまい。いい気味だわ』

 ひとしきり笑うと、デスクの上の電話機に手を伸ばす。

『あたしのものにちょっかい出しただけでもむかつくのに、あんなハイスぺイケメンにアップグレード⁉ 地味女のくせに……許さない! さっさと目の前から消えて!』

 憎々しげにそう言い放った久保田さんが、電話機のボタンを押す。スピーカーモードで着信音が流れだした。『はい』と声がすると、久保田さんはスマートフォンを電話機に近づけた。

『秘書課です。今から言うファイルをすぐに――』
「これ……」

 あのとき私が受けた内線とまったく同じセリフだ。

「前もってボイスチェンジャーを使って録音しておいたのだろうな」

 智景さんの言葉に、彼女の声だとわからなかった理由が腑に落ちる。

 録画の再生が終わり、スマートフォンからソファーに座るふたりに目をやると、画面の中の威勢は見る影もなく、真っ青な顔で固まっている。向かい側に座る松井常務は、信じれないと言った顔で呆然としていた。

 智景さんは見たことがないほど鋭い目つきで彼らを睨んだ。

「被害がない? ふざけるな。無実の罪を着せられた美緒の苦痛が一番の被害だ」

 地を這うような低い声でそう言った後、智景さんの合図でドアから警備員が入ってきた。

「この件はグループ全社で共有させてもらう。今後のことが決まるまで、長澤と久保田の両名は自宅謹慎。言っておくけれど、下手な小細工が通用すると思うなよ。罪状が増えるだけだ」

 智景さんがそう告げた後、警備員がふたりを連れて出ていった。彼は部屋の残された常務を振り返る。

「あなたも責任逃れはできませんよ」

 がっくりとうなだれた松井常務は、力なく「はい」と返事をした。