拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 これは暗に、産業スパイよりも痴情のもつれによる逆恨みの方が罪は軽いぞ、と言われているのだ。

 冗談じゃない。よりにもよって長澤さんとの痴情のもつれだなんて!

『だれもすきになれない欠陥人間』と言われた私に、痴情なんてあるはずがない。そのことを、わたしをそう罵った長澤さん自身が一番わかっているはずだ。

 それに、まだ一度も言葉にしたことのない『すき』という想いを、どうしてその相手以外に初めて口にできるだろう。ましてや長澤さんに対してだなんて。

 たとえ嘘だとしても、長澤さんに好意を持っていたと公言するくらいなら、産業スパイを疑われた方がまだましだ。

 だけど――。

 それでは智景さんに迷惑をかけてしまう。

 常務は話を聞いてくれると言いながらも、その実、面倒なことに早く片をつけたいだけで、真実はどうでもいいのだ。

 私が一番大事なものはなに? 守りたいものは――。

 ぐっと奥歯を噛みしめ、バッグの中に手を入れる。念のため持参していた辞表を握る。

「私は……」

 喉がひりついて、言葉がどうしても出てこない。それでもどうにか絞り出そうとしたとき、突然バンっと大きな音がしてドアが開いた。