拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 部屋に入った瞬間、思わぬ人が目に飛び込んできた。久保田さんだ。彼女は応接セットに、常務と向かい合って座っていた。

 どうして彼女がここに――と思ってすぐ、彼女が『自分は松井常務の姪だ』と言っていたことを思い出した。

 久保田さんは眉根を寄せて困ったような顔をしているのに、口角は上を向いている。彼女は私の窮状を知っているのだと直感した。

「きみは昨日の……。謹慎と言っただろう。なにをしに来たのだ」

 松井常務のとがめるような声に心拍数が上がる。私は応接テーブルの手前まで行き、背筋を正してしっかり常務と目を合わせた後、腰を九十度に折った。

「常務、突然のご訪問申し訳ございません。後で構いませんので、お時間をいただけませんか」
「この後はすぐに会食に出る。話があるなら今この場で聞こう」
「ありがとうございます……!」

 すんなりと了承してもらえるとは思っていなかったので、かなりほっとした。この件では部外者である久保田さんの存在は気になるが、常務がいいと言ったのだから、私がとやかく言うことではない。私は昨日のことをもう一度詳細に話した。

 あのときは突然わけもわからないうちに産業スパイだと言われ気が動転していた。マンションに戻ってできる限り細かいことまでを思い返し、メモを取ってきた。

「じゃあなにか。君はその内線をかけてきた女性に騙されてファイルを取りに来たということか」
「はい。キャビネットの鍵もファイルの中から落ちてきました。もしかしたら誰かが私のことをスパイに仕立てようとしたのかもしれません」