拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 私の個人的な事情で先生を悩ませてしまって申し訳なくなる。話を聞いてもらえたおかげで気持ちがほんの少し軽くなった。もうこれ以上先生を引き留めるわけにはいかない。お礼を言ってマンションに戻ろうと口を開きかけたら、先生がこちらを向いた。

「美緒ちゃん、あなたが逆の立場だったらどう思う?」
「え?」
「つまり、濡れ衣を着せられたのが彼で、その彼があなたになにも告げずにいなくなったら――」
「嫌です! 絶対に嫌っ」

 口から言葉が飛び出した。

『こんなふうに消えてしまわれるくらいなら、いっそ出会わなければよかった』

 そう思ってしまうほど、傷ついたことがよみがえる。

「美緒ちゃんはその彼のことがすきなのね」
「はい」

 迷いなくそう答えた自分に驚いた。

「もしかして、その彼がその匂い袋をくれたの?」
「え?」
「さっきからずっと握りしめているでしょう? とてもいい香りね。固い蕾が開く春ような、甘い中に清々しさがあるわ」

 にこにこと言う先生に、彼が合わせて作ってくれたことを話す。すると先生は、お香の調合は、同じレシピを使っても人それぞれ個性やセンスが出るものだと言った。