私、すぐにあそこから出ていかなきゃ……。
同居していることを誰にも知られていない今ならまだ、彼に迷惑をかけずに済む。今すぐ辞表を出して実家に戻れば、もう二度と彼には会うこともない。完全に縁を切るのが彼のためだ。
そう思った瞬間、じわっとまぶたが熱くなり、視界がにじんだ。
「智景さん……」
匂い袋をぎゅっと握りしめると、どこかから声がした。
「美緒ちゃん?」
聞こえた声に顔を上げる。
「やっぱり美緒ちゃんだわ。どうしたのこんなところで――」
しゃべりながら近づいてきた光子先生が、私を見て目を見張った。ハンカチを差し出してくれたけれど、黙って頭を左右に振る。すると先生は手に持ったハンカチを、私の頬にぽんぽんと当て始めた。
「先……生……っ」
張りつめていたものが、ぷつんと音を立てて切れた気がした。ハンカチを汚してしまうと思うのに、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を、どうしても止めることができない。



