追い出されるようにして会社を後にし、呆然としながら帰路についた。
あと少しでマンションに帰りつくというところで足がピタリと止まって動かなくなった。目の前にあった公園にふらふらと入り、ベンチにぺたんと座り込む。
「どうしたらいいの……スパイなんてするはずないのに……」
機密情報を渡すような相手なんていない。きちんと調査してもらえれば、私の潔白は証明されるはず。――そう思うのに、どうしても不安がぬぐえない。
万が一このまま無実が証明されず、産業スパイの濡れ衣を着せられたら、当然私は懲戒解雇だ。それどころか損害賠償や刑事的責任を問われることだってあり得る。
智景さんまで調査の手が及ぶことは想像に難くない。そうなったとしても、親会社の御曹司である彼が、情報流出先ではないことはすぐにわかるだろう。
けれど容疑者をいっときでも自宅に置いていたことで、後継者としての資質を問われてもおかしくない。彼を追い落そうとする人間にとって、事実かどうかは関係ないのだと、万由美さんは言っていた。
『あなたが失態を犯せば、智景の立場を危うくするでしょう』
彼女の言葉が頭の中に響き渡る。
彼の足を引っ張ることだけはしたくない。
万由美さんが言っていた『覚悟』の意味がようやくわかった気がする。



