拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「ですが、本人の意思を無視してまで、お見合いを押し通そうとは思っておりません」
「え!」
「智景をあなたから引き離して無理やり結婚させても、相手のお嬢さんを不幸にするだけでしょうから」

 強引な手段に出ようというわけではないということに、ほっと安堵の息を吐き出そうとしたとき、厳しい声がした。

「だからと言って、あなたとの結婚を認めるとは申しておりません」

 吐き出しかけた息を再びのんだ私に、万由美さんが畳みかけてくる。

「妻の失敗は夫の失敗。わたくしどもがいるのはそういう世界です。もしあなたが失態を犯せば、智景の立場を危うくするでしょう。なんの覚悟も持っていない者に来てもらっても迷惑です」

 万由美さんが言ったことに、なにか自分なりの返事をしなければと思うのに、口を開いても喉が詰まったように声が出せない。
 開いた口を閉じて下唇を噛んだ私を見て、彼女がふうと静かに息を吐いた。

「悪いことは言いません。今のうちに身をお引きなさい。その方があなたのためでもあります」

 彼女は言い終えると、「コーヒーごちそう様でした」とだけ言って、帰っていった。