拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 あと少しで鼻先が触れ合う、というところで口が勝手に動いた。

「恋は嫌」

 一滴の涙が頬を滑り落ちると同時に、彼が目を見開いた。

「あんな思いはもうたくさんなの」

 魂を引きちぎられたような痛みと苦しみなんて、もう二度と味わいたくない。愛すれば愛するほど、その分別れはつらくなる。あんなにつらく苦しい思いを味わうくらいなら、私は――。

「もう二度と恋なんてしないわ」

 両手で顔を覆っていやいやをするように頭を左右に振る。とめどなくあふれ出した涙が、手首から腕へと伝った。
 次の瞬間、私は彼にかき抱かれていた。

「悪かった、美緒」

 背中に回された腕がぎゅうっときつく締まる。

 どうしてあなたが謝るの? あなたはなにも悪くない。悪いのは、記憶の人にあなたを重ねて、八つ当たりをしている私だ。

 漏れそうになる嗚咽を必死にかみ殺すと、「ううっ」とうなるように喉が鳴った。