拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「これって……」
「女将に用事があったついでに、さっきの店に寄ってね。自分が調香したものを特別に匂い袋にしてもらったんだ。気に入ってもらえるといいけど」
「わたしに……ですか?」
「ああ」

 差し出された匂い袋を両手で受けとった。鼻から大きく息を吸い込むと、ふくよかな香りが肺の中に満ちていく。
 ――と同時に頭の中に低い声がよみがえった。

『この薫物(たきもの)が気に入ったのなら、今度同じものを贈ろう』

 寒いだろう、とあの人が肩に掛けてくれた衣から香っていたのはこれだった。
 懐かしさに胸がせつなく締めつけられ、匂い袋を両手でそっと包み込む。

「ありがとうございます……大事にします」

 お礼を言って顔を上げた瞬間、いきなり抱きすくめられた。

「ずるいな、美緒は」

 耳もとで唸るような低い声に、小さな悲鳴をのみ込んだ。