拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 用事ってなんだろうと疑問に思うけれど、顔の広い彼のことだから、知り合いや仕事関係の相手と急遽会うことになったのかもしれない。

 もしかしたら女性と……なんてことも……。

 だとしても、彼がどこでなにをしようと私には関係ないはずだ。
 そこまで考えて急いで頭を左右に振る。やっぱり少しのぼせたのかもしれない。
 長湯をしたうえに、軽く浴槽を掃除してお湯を張り直してきたせいだろう。

 本当はもうすこし汗が引くのを待ちたかったけれど、悠長に脱衣所で涼んでいるわけにはいかなかった。汗ばんだ肌に浴衣を羽織り、だらしなく見えないようにと、首もとで衿を深く合わせてから硬く帯を結んだ。

 肝心の智景さんがいないことに気が抜けた私は、羽織ったばかりの羽織を脱いでソファーの背にかけ、ミニバーからミネラルウォーターを取ってくる。飲みながら夜風に当たろうとソファーのすぐ横の窓を開けたら、一瞬で冷たい空気が流れ込んできた。

「わあ……きれい……」

 真っ暗な空からは次々と白いものが舞い降りてくる。
 そういえば、あのとき――千年前の最後の夜も、こんなふうに小雪がちらつく寒い夜だった。

 彼さえいれば他になにもいらなかった。美しい衣も甘いお菓子も。
 あなたがいなければ、すべて色あせてしまうのに――。

「はあ」と白い息を吐いたとき、ふわりと肩になにかを掛けられた。はっとして振り向くと、真後ろに智景さんが立っていた。