拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 彼のこういう所作には、まるで邪な意思を感じない。エスコートとの一環と思わせるほどスマートなせいかもしれない。
 彼はきっと相手が私ではなくても、こんなふうに教えるのだろう。そう考えた途端、胸の奥に鉛のようなものが落ちた気がした。

 その後、店員さんに聞香体験のお礼を言いショップを出た。

 お香店を出た足でレストランへ向かう。着いて案内されたのは、二方向を窓で囲まれた個室だった。窓を開け放てば視界を遮るものなく嵐山と大堰川の眺望を堪能できるだろう。けれどさすがに今は真冬。そんなことをしたら食事が終わる前に凍えてしまう。きっちりと閉めきられた窓の向こう側に小雪がちらつくのを見ながら乾杯をした。

 運ばれてきた料理は京野菜をふんだんに使った懐石料理で、体の芯から温まる寒い夜にぴったりの滋味深いひと皿から、近江牛や越前蟹などを惜しげもなく使用した豪華なメニューまでさまざまだ。

 極上の料理に舌鼓を打ち、デザートのわらび餅までしっかり堪能して「ごちそうさまでした」と席を立ったとき、一瞬足元がふわりとした。

 いけない、しっかりしなきゃ。

 せっかくだからとシャンパンに挑戦したのはいいけれど、いつかのように彼に抱えられたら困る。足元に注意し、気を引き締めて部屋まで戻った。