拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 赤い毛氈(もうせん)の敷かれた階段を、まるで初めて社交に出るご令嬢かのように一歩一歩丁寧にエスコートされながら下る。そうしてたどり着いたのは、ロビーの奥にあるお香専門店だった。

 落ち着いた雰囲気の店内には、色とりどりのお香が並べられていた。グラデーションが作れそうなほど色彩豊富で、見ているだけでも楽しい。『香り見本』と書かれた小瓶を手に取り、匂いを嗅いでみた。

「いい香り……」

 香水やアロマオイルとはまた違った、まろやかで上品な香りだ。

「すごくたくさんの種類があるんですね」
「そうだね。香りのもととなる天然香料は数十種類もあって、その配合を少し変えるだけでまったく別の香りに感じることもある。香の世界は奥深い」

 しみじみとした口調の智景さんに、なるほどとうなずいた。

 お香以外にも、お香にまつわる道具が色々と置かれている。
 お香をたくときに使う香立てと香皿は、色柄やデザインが豊富で、組み合わせを選ぶのも楽しそうだ。
 その隣には、白磁や有田焼など有名な焼物の香炉も並んでいる。ひとえに『お香』といっても色々なものや道具があることに興味深く思いながら、ひとつひとつをじっくりと見ていくと、湯飲みのような器が目に留まった。

「これは?」
「これは聞香炉(ききごうろ)だね」
「聞香炉?」

 耳慣れない言葉に首をかしげる。