拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 彼が東雲の御曹司ということを考えれば、大企業の社長と付き合いがあることに驚くこともない。彼自身も社長という肩書を持っている。

 やっぱり彼とは住む世界が違うのだ。こうして私達が一緒にいることの方が不自然なことなのだろう。

 そんなことを考えながら宿泊者名簿を書きあげた頃、女将がティーポットを持って戻ってきた。深蒸し茶をベースに、カモミールとジンジャーをブレンドしたKAGETSUオリジナルのハーブ緑茶だそうだ。説明をしながらお茶をいれると、女将は「ごゆっくりどうぞ」と言い部屋から出ていった。

 智景さんとふたり、広々としたソファーに座ってハーブ緑茶を飲む。カップからリンゴに似た甘い香りがたちのぼり、ひと口飲むと優しい香りと温かさにほっとした。

 飲み終わっても夕食の時間までまだ一時間ほどある。智景さんが館内を案内してくれるというので、そのまま一緒に部屋を出た。

 明治時代の趣をほどよく残した絨毯敷きの廊下を歩きながら、窓の外に目をやる。藍色の空からはふわふわと白いものが降っていて、見下ろす松の枝には薄っすらと積もっていた。日が暮れてからどんどん冷え込んでいるとは思っていたけれど、まさかこんなに雪が降るとは思っていなかった。

 私の視線を追いかけるようにして、智景さんが窓の方を向く。

「雪、やみそうにないな」

 彼の言葉に黙ってうなずいた。