拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 そんな会話を交わす彼らの傍らで、私は混乱のさなかにいた。

 いったいなにがどうなってるの⁉

 まるで今日はここに宿泊するみたいな口ぶりだ。

 まさかね?

 彼は出かけるときにそんなことひと言もいわなかった。日帰りだと思ったから宿泊の準備なんてしていない。
 今すぐ問いただしたいところだけれど、女将さんの前で騒ぐわけにはいかない。

 私は聞いていませんよ? と半歩前を歩く彼の横顔に訴えたら、視線に気づいた彼が振り返った。目が合うとにこりと微笑まれる。

 たとえどんなに素敵な笑顔だとしても、ごまかされませんからね?

 そう心に誓いながらロビーに一歩足を踏み入れた途端、別世界のような空間に圧倒された。
 ロビーは、木製の手すりが美しい階段を正面に据えた吹き抜けになっており、釣り灯籠(とうろう)のようなシャンデリアの明かりが、足元に敷かれたワインレッドの絨毯をしとやかに照らしている。

「すてき」

 ほうっとため息が漏れる。