拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない


 どうして今さら――。

 二十六年ずっとひとつの場面しか見ることがなかったのに、突然こんなに色々なことを思い出すなんて。

 北野天満宮を出た後、再び乗ったハイヤーの中で、私は梅苑で唐突に思い出したことばかりを考えていた。

 京都という土地が影響しているのかもしれない。けれど最初に別のシーンを思い出したのは今日ではなかった。

 一度思い出せば記憶の鍵が開いたかのように、あれこれと記憶があふれだしてくる。

 彼が私の前から姿を消したのは、政変に巻き込まれたからだった。
 右大臣が、帝やその皇子を亡き者にしようと呪詛を謀ったことがわかり捕まった、という噂が、またたく間に宮中に駆け巡った。

 捕らえられた右大臣は、兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)――記憶の中のあの人に頼まれたのと言ったそうだ。

 そんなはずはない。彼がそんな人ではないことは私が一番よく知っている。
 けれどそれを証明するすべがなかった。一介の女房に過ぎない私の言葉など誰も取り合ってはくれなかった。それどころか、帝の祖父であり、時の権力者でもある左大臣の怒りを買いたくない人々からも疎まれて、私に関わろうとする人もいなくなった。

 そして彼は、はるか遠い西国――大宰府の地へ流罪となった。

 短時間で一気に色々なことがよみがえったせいで、様々な感情が胸にあふれかえっている。

 濁流のような記憶にのまれて、無関係な智景さんに八つ当たりするようなことはもうしたくない。
 東京に戻れば、この胸のざわめきも落ち着くだろうか。
 あと少しで京都から離れられる。あれほど来たかった場所なのに、今は少しでも早くここから去らなければという焦燥感まで湧いていた。