「ごめん」
耳もとで低い声が聞こえた。目の前が明るくなると同時に、自分が彼に抱きしめられていることに気づいた。周囲のざわめきにここがどこかを思い出す。慌てて身をよじったら、背中に回る腕がぎゅっと強く締まった。
「僕が無神経だった。もう二度と言わないから、泣かないでくれ」
「泣いてなんて……っ」
顔を上げた瞬間、目からぽろりとしずくが落ちた。
眠っているときに見た記憶のせいで泣いていたことはある。けれど起きているときに泣いたことなんてない。そもそも眠ってもいないのに、あの記憶を見るなんて思わなかった。
どうして……。
私の涙の跡をぬぐう彼の方が、なぜか私よりも苦しげに顔をゆがめている。
「すみません……もう大丈夫ですから……」
彼の胸を両手でゆっくりと押し返すと、難なく離れた。彼はなにも言わず私の手を取ると、再び歩き出した。
あたりが薄暗くなり、梅の枝に下げられた小さなガラスのキャンドルに火が灯りはじめる。
ろうそくの柔らかな光が揺れる梅林の間を、私達はただ黙って歩いていった。
耳もとで低い声が聞こえた。目の前が明るくなると同時に、自分が彼に抱きしめられていることに気づいた。周囲のざわめきにここがどこかを思い出す。慌てて身をよじったら、背中に回る腕がぎゅっと強く締まった。
「僕が無神経だった。もう二度と言わないから、泣かないでくれ」
「泣いてなんて……っ」
顔を上げた瞬間、目からぽろりとしずくが落ちた。
眠っているときに見た記憶のせいで泣いていたことはある。けれど起きているときに泣いたことなんてない。そもそも眠ってもいないのに、あの記憶を見るなんて思わなかった。
どうして……。
私の涙の跡をぬぐう彼の方が、なぜか私よりも苦しげに顔をゆがめている。
「すみません……もう大丈夫ですから……」
彼の胸を両手でゆっくりと押し返すと、難なく離れた。彼はなにも言わず私の手を取ると、再び歩き出した。
あたりが薄暗くなり、梅の枝に下げられた小さなガラスのキャンドルに火が灯りはじめる。
ろうそくの柔らかな光が揺れる梅林の間を、私達はただ黙って歩いていった。



