拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

 だとしても、私は帝の血を引く彼からの求愛を、最初から本気にしていたわけではない。

 彼は身分だけでなく、見た目も芸ごとにも秀でていて、とても人気のある貴公子だった。対する私は中流貴族の娘で、取り立てて見た目がいいわけでもない。

 彼にとって後ろ盾どころかお荷物にしかならないのだ、一夜の関係で終わるに決まっている。よくて、何人もいる恋人のひとりにしかすぎないだろう。

 釣り合うはずもない相手への恋情に身を焦がして、後々泣くようなことにはなりたくない。
 そう思って彼からの求愛を取り合わずにいたのに、彼はそれを軽々と越えてきた。

 突き放せばひらりとかわし、私が警戒するとあっさり引くくせに、いてほしいときはそばにいて手を差し伸べてくれる。

 気づいたときには、彼は私の心の内側に入り込んでいた。

『そばにいてほしいのはきみだけだ』
『一生きみだけを愛すると誓うから、私の妻になってくれないか?』
『きみと結婚できなければ、一生独り身のままでいい』

 幾度となく熱心に口説かれて、ためらいながらも彼の求婚を受け入れることにした。

 ひとたび許してしまえば、彼は遠慮する必要がないとばかりに、蕩けるほど甘く熱い愛を私に注ぎこんだ。彼が以前『これでもまだ控えめにしている』と言っていたことが、決して嘘ではなかったと思い知るほどだった。

 そうして幸せな未来を信じて婚姻の儀を執り行っているさなか、彼は突然いなくなった。
 その理由を知ったのは、乾くいとまもない袖が、凍りつきそうなほど寒い朝だった。