拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない

「でも、道真本人はどうだったんだろうね」
「え?」

 隣を振り仰ぐと、彼は梅の木の向こう側になにかを見るような遠い目をして口を開いた。

「大事に育てた梅の木に、地面から根を引き抜いて命がけで自分のもとに来てほしいと思ったのだろうか。もしかしたら、そんな危険を冒さず、この場所でずっと美しい花を咲かせてほしい――平穏で幸せに過ごしていてほしい、と願ったんじゃないかな」

 彼の言葉に反射的に言葉が口をついて出た。

「じゃあ置いていかれた方は? すきな人のそばにいることができないのに、どうして幸せだと言えるの⁉ 私だって……できることなら飛んでいきたかった!」

 勢いのまま吐き出しきり、はっとした。彼の目がみるみる見開かれていく。

「あ……いや……あの……」

 私はいったいなにを口走ったの? 

 急に目の前が真っ白になり、周りの音が遠ざかった。

『どうして私を置いていってしまったの⁉』

 頭の中に悲痛な叫びが響きわたり、突如として記憶がよみがえった。

 彼がいなくなったのは、私達が正式な夫婦となるはずの日だった。

 先帝の第一皇子として生まれた彼は、母親の身分が低かったため皇太子にはなれなかった。
 成人してからは、兵部省(ひょうぶしょう)の長官として異母弟である帝に仕えていた。

 彼自身はその方が気楽でいい。自分の意思に関係なく何人もの妃を迎えなければならない立場なんてごめんだ――と言っていた。