私、今なにを口にしたの?
〝私は〟、何百キロもの距離を飛んでいくほど誰かに会いたいと思ったことなんてない。だからうらやむ必要なんてどこにもない。
ないはずなのに――。
「美緒?」
「なんでもありません。さ、早くお参りしましょう」
伺うような視線を感じたけれど、気付かないふりをして拝殿へと足を向けた。
参拝を済ませた後、境内を散策しながら梅苑へと向かう。一歩中に入ると、馥郁とした香りに包まれた。
「いい香り」
木々を縫うように設けられた散策路は、日暮れ間近というのに多くの人でにぎわっている。香りもさることながら、薄紅色の小花が枝に並んでいるのもかわいらしく、いくら見ていても見飽きそうにない。こんなに寒い中でもたくさんの人が訪れるのも納得だ。
「梅、とひと口に言ってもたくさんの種類があるのですね。色も花びらの形も」
歩きながら、時折足を止めて花に顔を近づけてみる。
「香りも少しずつ違う気がします」
甘く清らかな花の香を胸いっぱいに吸い込む。控えめな、それでいて何者にも媚びない高潔さも感じる。
「道真公が大事にしていたのがわかる気がします」
「そうだね。こんなに美しく咲くんだ。自分がいなくなった後も、変わらず幸せにいてほしいと願わずにはいられないだろうな」
「自分がいなくなっても……」
胸のあたりに、転んでひざを擦りむいたときのようなじくじくとした痛みが広がった。
〝私は〟、何百キロもの距離を飛んでいくほど誰かに会いたいと思ったことなんてない。だからうらやむ必要なんてどこにもない。
ないはずなのに――。
「美緒?」
「なんでもありません。さ、早くお参りしましょう」
伺うような視線を感じたけれど、気付かないふりをして拝殿へと足を向けた。
参拝を済ませた後、境内を散策しながら梅苑へと向かう。一歩中に入ると、馥郁とした香りに包まれた。
「いい香り」
木々を縫うように設けられた散策路は、日暮れ間近というのに多くの人でにぎわっている。香りもさることながら、薄紅色の小花が枝に並んでいるのもかわいらしく、いくら見ていても見飽きそうにない。こんなに寒い中でもたくさんの人が訪れるのも納得だ。
「梅、とひと口に言ってもたくさんの種類があるのですね。色も花びらの形も」
歩きながら、時折足を止めて花に顔を近づけてみる。
「香りも少しずつ違う気がします」
甘く清らかな花の香を胸いっぱいに吸い込む。控えめな、それでいて何者にも媚びない高潔さも感じる。
「道真公が大事にしていたのがわかる気がします」
「そうだね。こんなに美しく咲くんだ。自分がいなくなった後も、変わらず幸せにいてほしいと願わずにはいられないだろうな」
「自分がいなくなっても……」
胸のあたりに、転んでひざを擦りむいたときのようなじくじくとした痛みが広がった。



