「そんなに、悪い奴じゃなかった」
善悪の判断がつかないだけで。
そもそも善悪の判断の仕方なんて生まれた場所や時代によってバラバラだ。
如月は自分の好奇心を満たす為に周りを利用することを悪いことだとは考えていなかった。
僕に如月の復讐に対してあまり気分が乗らない部分があったのはそのせいだろう。
いっそ完璧な悪人なら、もっとやりやすかったのに。
「ジャーマンポテト食べさせたら泣いてたよ」
「はぁ?変な奴だな。うまいのに」
「違う違う。おいしくて泣いてたの」
思い出してクスクス笑ってしまう。
その時、自分の心が軽くなっていることに気付いた。
ベルが死んでからずっと感じていた重たい感情が消えている。
…人を憎むって苦しいんだ。
僕はずっと苦しかったんだ。
「……もう喋るな」
自分で思っているよりもやばそうな状態らしい僕に、アランは厳しい声で言った。
別に腕ちょん切れたって言っても麻痺してんのか痛くないし、まだ喋る余裕はある。
でもアランがすげぇ怖い顔してるから、外に出るまで黙っていることにした。
外に出ると見知らぬ男が立っていて、ステーションワゴンの中のベッドに寝かされた。
おそらくフォックスさんが連れてきた軍医だろう。
寝転がったまま、隣に立つアランに気になっていることを聞いてみた。
「研究の存在を知る日本のお偉いさんって、何人くらいいた?」
「研究の支援は士巳豆が独断で行ってた。だから士巳豆をどうにか始末すれば良かったんだが…。それがな、死んだらしいんだ」
「は?」
「士巳豆。何者かによって暗殺されたらしい。日本のテレビは大騒ぎだ」
……タイミングが良すぎないか?
そんな指示は誰にも出してないし、聞いてない。
僕たちの中の誰かがしたわけじゃない。
今このタイミングで士巳豆を殺してメリットのある人間が偶然いたってこと?
「お前は、そんなことより治療が先だ。義手になるだろうな」
「片腕でも十分戦えるよ?こっちこそ心配なんだけど。研究員は1人も逃がさないでよね。この研究所、出口は結構あるんだから」
「問題ねぇよ。ブラッドも来てる」
そっかそっか、ぶらりんが来てるなら安心……って、ちっがーう。
「ほんとに大丈夫?多分あの人熱あると思うんだけど。昼間から調子悪そうだった」
「そうか?港で別れた時はそうでもなさそうだったが」
「僕が合流した時は既にちょっと顔色悪かったよ。……やばくない?」
ぶらりんは自分の限界に鈍い。
ただの風邪とはいえ、こんな状況下では死に繋がる。
高熱になってくればいくらぶらりんと言えど上手く動けないだろうし、研究員だって自分を殺そうとしてくる相手に容赦すると思えない。
「誰かにブラッドの様子見に行くように頼んでみるか。チャロは1番人が通りそうな出口にいるから手ぇ離せねぇだろうし、暇してそうなキャシーかジャックに…」
アランがそこまで言った時、誰かが研究所とは逆方向に走っていくのが見えた。
まさか研究員の誰かじゃ、と思い反射的に起き上がろうとしたが、治療中の軍医に物凄い力で押さえ付けられた。
動くなってか…。力強ぇなマジで。
「アラン、今走っていったの誰か分かる?」
「…ジャックだな」
「は?ジャック?」
何で今ジャックがあんな必死にどこかへ行く必要があるんだ?
あの詐欺師、何か企んでるとかじゃないよな?
「………トイレじゃねぇのか?」
「あー…男なんだからその辺で立ち小便しときゃいいのに」
まぁ、もう何時間も経ってるし仕方ないか。
《《<--->》》
あの友人〈ひと〉のためにできることを。
《《<--->》》
『 ストーカーッ!ストーカーですわっ! 』
《《<--->》》
episode12
《《<--->》》
〈 キャシーサイド 〉
全く人が出て来る様子のない出口付近で突っ立っていると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
リバディーの誰かだと思い振り返ったが、そこには予想外すぎる相手が立っていた。
「えっ……な、何であなたがここに」
リバディーの人間でも、今回この作戦に協力している人間でもない――ついでに言うとこの場所を知っているはずもない――バズ君だ。
「こんな深夜に任務以外でキャシーが出掛けっぱなしって、怪しいなって思って。人工衛星の発する電波からキャシーの現在位置を…」
「GPSですわね!?いつの間に私の携帯の設定いじりましたの!?ストーカーッ!ストーカーですわっ!」
「…うるさい。こんなとこで何してるの?ただ事じゃないのは分かるけど」
責められるようなことをしているのはバズ君だけではないことにハッと気付く。
い、言えない…!
フォックスに誘われてリバディーの方々のお手伝いをしてるなんて言えない…!
「この辺に何人かいるのってリバディーの人間だよね?」
「チガイマスワ」
「アリス絡み?ここって何かの研究施設だよね。リバディーと組んでアリスのために動いてるってとこかな?」
「チ、チガイマスワ」
アアアアアほとんどバレてますわ!
リバディー側にもこちらを捕まえないという約束をしてもらったうえで動いてる。
シャロン様がアリスの目的の妨げをしていらっしゃる以上、組織関係なく個人としてアリスのお手伝いをするしかないと考えた結果なのですが……。
やっぱりいくら何でもリバディーの方々と共同作業というのはまずかったでしょうか?
このままじゃ裏切り者として―――
「心配させないでよ」
ぎゅっとバズ君に抱きしめられて、言葉を失った。
「バ、バババババズ君、ちょっと近す、」
「知らない。」
ちゅっとほっぺにキスされて、思わずバズ君を突き飛ばして3mほど後退る。
「想うだけでいいんじゃなかったんですの!?手を出そうとは思ってないって言ってたじゃありませんか!」
この男ほっぺにキッスを!KISSを!
こんなにあっさり手を出すってことは、やっぱり事の重大さを分かってないんですわね!?
「私たちは腹違いの兄妹ですのよ!」
ポロッとずっと隠していた事実が口から出てしまい、言った直後アッ…と思ったが、それ以上に次に来るバズ君の言葉に驚かされた。
「うん。知ってるけど?」
「……はぁ!?」
「え?知らないと思ってたの?リーダーから聞いてるよ?」
口をパクパクさせることしかできない私に平然たる顔つきで近付いてくるバズ君は特に悪いことをしているとは考えていないらしく、何故だか古代エジプトの王族の例を挙げてくる。
「ボクたちの組織に法律なんかないし、何しようが自由でしょ。古代エジプトの王族は兄妹でも結婚してたらしいよ?ボクは心配かけさせてくるキャシーにちょっとムカついただけだし、手を出したうちに入らないと思うけど」
「いや、そ、それは……」
善悪の判断がつかないだけで。
そもそも善悪の判断の仕方なんて生まれた場所や時代によってバラバラだ。
如月は自分の好奇心を満たす為に周りを利用することを悪いことだとは考えていなかった。
僕に如月の復讐に対してあまり気分が乗らない部分があったのはそのせいだろう。
いっそ完璧な悪人なら、もっとやりやすかったのに。
「ジャーマンポテト食べさせたら泣いてたよ」
「はぁ?変な奴だな。うまいのに」
「違う違う。おいしくて泣いてたの」
思い出してクスクス笑ってしまう。
その時、自分の心が軽くなっていることに気付いた。
ベルが死んでからずっと感じていた重たい感情が消えている。
…人を憎むって苦しいんだ。
僕はずっと苦しかったんだ。
「……もう喋るな」
自分で思っているよりもやばそうな状態らしい僕に、アランは厳しい声で言った。
別に腕ちょん切れたって言っても麻痺してんのか痛くないし、まだ喋る余裕はある。
でもアランがすげぇ怖い顔してるから、外に出るまで黙っていることにした。
外に出ると見知らぬ男が立っていて、ステーションワゴンの中のベッドに寝かされた。
おそらくフォックスさんが連れてきた軍医だろう。
寝転がったまま、隣に立つアランに気になっていることを聞いてみた。
「研究の存在を知る日本のお偉いさんって、何人くらいいた?」
「研究の支援は士巳豆が独断で行ってた。だから士巳豆をどうにか始末すれば良かったんだが…。それがな、死んだらしいんだ」
「は?」
「士巳豆。何者かによって暗殺されたらしい。日本のテレビは大騒ぎだ」
……タイミングが良すぎないか?
そんな指示は誰にも出してないし、聞いてない。
僕たちの中の誰かがしたわけじゃない。
今このタイミングで士巳豆を殺してメリットのある人間が偶然いたってこと?
「お前は、そんなことより治療が先だ。義手になるだろうな」
「片腕でも十分戦えるよ?こっちこそ心配なんだけど。研究員は1人も逃がさないでよね。この研究所、出口は結構あるんだから」
「問題ねぇよ。ブラッドも来てる」
そっかそっか、ぶらりんが来てるなら安心……って、ちっがーう。
「ほんとに大丈夫?多分あの人熱あると思うんだけど。昼間から調子悪そうだった」
「そうか?港で別れた時はそうでもなさそうだったが」
「僕が合流した時は既にちょっと顔色悪かったよ。……やばくない?」
ぶらりんは自分の限界に鈍い。
ただの風邪とはいえ、こんな状況下では死に繋がる。
高熱になってくればいくらぶらりんと言えど上手く動けないだろうし、研究員だって自分を殺そうとしてくる相手に容赦すると思えない。
「誰かにブラッドの様子見に行くように頼んでみるか。チャロは1番人が通りそうな出口にいるから手ぇ離せねぇだろうし、暇してそうなキャシーかジャックに…」
アランがそこまで言った時、誰かが研究所とは逆方向に走っていくのが見えた。
まさか研究員の誰かじゃ、と思い反射的に起き上がろうとしたが、治療中の軍医に物凄い力で押さえ付けられた。
動くなってか…。力強ぇなマジで。
「アラン、今走っていったの誰か分かる?」
「…ジャックだな」
「は?ジャック?」
何で今ジャックがあんな必死にどこかへ行く必要があるんだ?
あの詐欺師、何か企んでるとかじゃないよな?
「………トイレじゃねぇのか?」
「あー…男なんだからその辺で立ち小便しときゃいいのに」
まぁ、もう何時間も経ってるし仕方ないか。
《《<--->》》
あの友人〈ひと〉のためにできることを。
《《<--->》》
『 ストーカーッ!ストーカーですわっ! 』
《《<--->》》
episode12
《《<--->》》
〈 キャシーサイド 〉
全く人が出て来る様子のない出口付近で突っ立っていると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
リバディーの誰かだと思い振り返ったが、そこには予想外すぎる相手が立っていた。
「えっ……な、何であなたがここに」
リバディーの人間でも、今回この作戦に協力している人間でもない――ついでに言うとこの場所を知っているはずもない――バズ君だ。
「こんな深夜に任務以外でキャシーが出掛けっぱなしって、怪しいなって思って。人工衛星の発する電波からキャシーの現在位置を…」
「GPSですわね!?いつの間に私の携帯の設定いじりましたの!?ストーカーッ!ストーカーですわっ!」
「…うるさい。こんなとこで何してるの?ただ事じゃないのは分かるけど」
責められるようなことをしているのはバズ君だけではないことにハッと気付く。
い、言えない…!
フォックスに誘われてリバディーの方々のお手伝いをしてるなんて言えない…!
「この辺に何人かいるのってリバディーの人間だよね?」
「チガイマスワ」
「アリス絡み?ここって何かの研究施設だよね。リバディーと組んでアリスのために動いてるってとこかな?」
「チ、チガイマスワ」
アアアアアほとんどバレてますわ!
リバディー側にもこちらを捕まえないという約束をしてもらったうえで動いてる。
シャロン様がアリスの目的の妨げをしていらっしゃる以上、組織関係なく個人としてアリスのお手伝いをするしかないと考えた結果なのですが……。
やっぱりいくら何でもリバディーの方々と共同作業というのはまずかったでしょうか?
このままじゃ裏切り者として―――
「心配させないでよ」
ぎゅっとバズ君に抱きしめられて、言葉を失った。
「バ、バババババズ君、ちょっと近す、」
「知らない。」
ちゅっとほっぺにキスされて、思わずバズ君を突き飛ばして3mほど後退る。
「想うだけでいいんじゃなかったんですの!?手を出そうとは思ってないって言ってたじゃありませんか!」
この男ほっぺにキッスを!KISSを!
こんなにあっさり手を出すってことは、やっぱり事の重大さを分かってないんですわね!?
「私たちは腹違いの兄妹ですのよ!」
ポロッとずっと隠していた事実が口から出てしまい、言った直後アッ…と思ったが、それ以上に次に来るバズ君の言葉に驚かされた。
「うん。知ってるけど?」
「……はぁ!?」
「え?知らないと思ってたの?リーダーから聞いてるよ?」
口をパクパクさせることしかできない私に平然たる顔つきで近付いてくるバズ君は特に悪いことをしているとは考えていないらしく、何故だか古代エジプトの王族の例を挙げてくる。
「ボクたちの組織に法律なんかないし、何しようが自由でしょ。古代エジプトの王族は兄妹でも結婚してたらしいよ?ボクは心配かけさせてくるキャシーにちょっとムカついただけだし、手を出したうちに入らないと思うけど」
「いや、そ、それは……」



