ここは一旦ジャックと作戦を立ててから交渉するのが懸命かもしれない。
「ブラッドさん、ジャックと話し合いたいこともあるし、少し別行動をしてもいいかしら。また後日集合しましょう」
「…兄さんは犯罪者ですよ?もう少し警戒してください」
……いや、私はつい最近まで犯罪組織にいたし周りが犯罪者だらけの環境で育ったし、寧ろブラッドさんといる方が変なのに。
「そう言うな。別にアリスを取ろうとしてるんじゃない。――気付いてないわけじゃないんだろ?二手に別れた方がいい」
私にはよく分からないジャックの言葉の意味をブラッドさんはしっかり理解しているらしく、「なら俺がアリスと行きます」と答えた。
「行き場はあるのか?ないだろ。俺は場所を確保してきた。その場所をお前に教える暇があるなら俺がこの子と行った方が早い」
「……」
「犯罪者を隠す方法は犯罪者の方がよく知ってる。俺なら安全な場所をいくつか提供できる。それとも、お前は自分のくだらない独占欲でこの子を危険に晒す気か?」
「……分かりました。預けます」
兄弟間での交渉は終わったらしく、ジャックは「行こうか」と私に手を差し伸べた。
ジャックが私を連れて来たのは、森の中のもう使われていなさそうな古い建物だった。
中に入ってみると、外から見るより広く感じた。
「アリス、少しの間上の階にいてくれないか?」
ここに泊まるのかとも思ったけれど、雰囲気からしてそうではないようだ。
「おそらく6、7…いや、8か?2、3人だと思ってたんだが、思った以上に数が多い。日本警察も侮れないな」
「…警察?」
「港からずっと尾行されてる。すぐ終わるから、ここで待っててくれ」
「…待っていなきゃいけないの?」
「ターゲットはアリスなんだから、隠れているべきだよ」
「……」
「君が無力だとかそういうことを言ってるんじゃない。君が努力して身を守る術を身につけたのも分かってる。でも、この場合は君がいない方が俺達は動きやすい」
「…俺“達”?」
「ブラッド達も一定の距離を保ちながら俺達に付いて来てる。後ろから尾行の数を確認してもらった方が確実だからね」
二手に別れた方がいいとは、そういう意味だったのか。
………ここで私が変に出しゃばったら足手まといになる。
それは分かってるから、引き下がるしかなかった。
「そんな顔をしないでくれ。例えば狙われてるのがブラッドだとしたら、俺はブラッドでも隠れていろと言うよ。君が力不足ってわけじゃない。……それとも、心配してくれているのかな?」
急にジャックの声に色っぽさが増した気がして顔を上げると、やはり色男モードのジャックの顔がずいっと近付いてきていた。
「俺の帰りを不安そうに待つ君の姿を見られないのが残念だ。きっと魅力的なんだろうな」
「…あーはいはい、いいから行ってきて」
何だかあほらしくなってきて、私はジャックの言う通り上の階へ向かった。
上の階は物置のようで、座る場所が殆ど無い。
唯一スペースの空いている窓際に座り、空を眺めた。
陰鬱な空だ。リバディーにスパイとして行った日のことを思い出す。
あの時と季節は違うけど、ちょうどこんな天気だったはずだ。
下の階からは暫く大きな音がしていた。
ドタン、だかダキャン、だか誰かが誰かを組み敷く音や、銃声がした。
古い建物だからか、その度大きく揺れた。
何分経っただろう。
急に静かになり、これまた久しぶりに見るキャラメルブロンドの髪の男が呼びに来た。
「アーリスちゃん!もう終わったから来ていいよ」
「…え…何で貴方が……」
誰かが呼びに来るだろうとは思っていたが、来たのは私が予想していた誰とも違う人物だった。
「ぶらりんに位置情報送ってもらって来たら、なーんか面白そうなことになってたからさ。参戦しちゃった」
語尾に星マークがつきそうな勢いでウインクするラスティ君は傷1つ負ってない。
ラスティ君に付いて下の階に下りると、チャロさんが一仕事終えた後のように平然と水を飲んでいた。
この家の水飲めるんだ…。
ジャックとブラッドさんも涼しげな顔で立っている。
警察は見受けられないから、おそらく外に放り出したのだろう。
それにしても、ジャックとブラッドさんが並んでいるのは初めて見たかもしれない。
兄弟とはいえ滅多に会うことのない組み合わせだろう。
そんなことを思いながら見ていると、ジャックがブラッドさんにとんでもないことを言い出した。
「シャロン君から連絡が入ってる。お前と話したいらしい」
「俺と?」
「会ってやってくれないか」
「………」
「危害を加えるつもりはなさそうだ。…それに、少し様子がおかしかった。本当に何か話したいことがあるんだろう」
断るだろうと思ったが、ブラッドさんは少し考える素振りをしてから、
「分かりました。いつですか?」
誘いを簡単に受け入れた。
「指定してきたのは今夜だ。できればどうしても今夜がいいらしい」
「そうですか。では、場所はこちらに指定させてください」
そう言って場所を書くためか部屋にあったメモ用紙を手に取るブラッドさん。
「ちょっと…ほんとに行くの?」
「話を付けてきます。今後彼が無理矢理君を連れ戻そうとしないとも限らないので」
「……」
シャロンが何のつもりなのか分からないから怖い。
私ではなくブラッドさんと話そうとするのは何故なんだろう。
「心配しないでください。何を言われても君を手放しませんから」
おかげさまで、そんな心配はしていない。
寧ろ放してくれと言っても放してくれないだろうと思ってる。
私が気になるのは……シャロンが今どんな気持ちでいるのかだ。
考え込む私に、ジャックが今度はフォックスのことを伝えてきた。
「フォックス君もこっちに向かってるよ。“あんたのためにクリミナルズに入ったのに、勝手に別行動するとはどういうことだ”ってぷんぷんしてたけどね」
「…そりゃ悪かったわね…」
連絡するまでもなく、ジャックもフォックスも私のところへ来てくれるらしい。
私は良い協力者を持ったと思う。
当然ながらフォックスを知らないブラッドさんは首を傾げた。
「フォックス、とは?」
「私の協力者よ。ついでに言うとジャックも私に協力してくれてるの。良ければみんなで力を合わせたいんだけど…駄目かしら?」
「…兄さんと協力しろということですか」
「お願い、このことに関してだけでいいから」
「……君は狡い」
「え?」
「俺が君の頼みを断れるはずがないでしょう」
ああ、そういえばこの人私にベタ惚れなんだった……。
思っていたよりあっさりジャックとの協力を受け入れたブラッドさんに、隣のジャックはクスクスと笑う。
「ブラッドさん、ジャックと話し合いたいこともあるし、少し別行動をしてもいいかしら。また後日集合しましょう」
「…兄さんは犯罪者ですよ?もう少し警戒してください」
……いや、私はつい最近まで犯罪組織にいたし周りが犯罪者だらけの環境で育ったし、寧ろブラッドさんといる方が変なのに。
「そう言うな。別にアリスを取ろうとしてるんじゃない。――気付いてないわけじゃないんだろ?二手に別れた方がいい」
私にはよく分からないジャックの言葉の意味をブラッドさんはしっかり理解しているらしく、「なら俺がアリスと行きます」と答えた。
「行き場はあるのか?ないだろ。俺は場所を確保してきた。その場所をお前に教える暇があるなら俺がこの子と行った方が早い」
「……」
「犯罪者を隠す方法は犯罪者の方がよく知ってる。俺なら安全な場所をいくつか提供できる。それとも、お前は自分のくだらない独占欲でこの子を危険に晒す気か?」
「……分かりました。預けます」
兄弟間での交渉は終わったらしく、ジャックは「行こうか」と私に手を差し伸べた。
ジャックが私を連れて来たのは、森の中のもう使われていなさそうな古い建物だった。
中に入ってみると、外から見るより広く感じた。
「アリス、少しの間上の階にいてくれないか?」
ここに泊まるのかとも思ったけれど、雰囲気からしてそうではないようだ。
「おそらく6、7…いや、8か?2、3人だと思ってたんだが、思った以上に数が多い。日本警察も侮れないな」
「…警察?」
「港からずっと尾行されてる。すぐ終わるから、ここで待っててくれ」
「…待っていなきゃいけないの?」
「ターゲットはアリスなんだから、隠れているべきだよ」
「……」
「君が無力だとかそういうことを言ってるんじゃない。君が努力して身を守る術を身につけたのも分かってる。でも、この場合は君がいない方が俺達は動きやすい」
「…俺“達”?」
「ブラッド達も一定の距離を保ちながら俺達に付いて来てる。後ろから尾行の数を確認してもらった方が確実だからね」
二手に別れた方がいいとは、そういう意味だったのか。
………ここで私が変に出しゃばったら足手まといになる。
それは分かってるから、引き下がるしかなかった。
「そんな顔をしないでくれ。例えば狙われてるのがブラッドだとしたら、俺はブラッドでも隠れていろと言うよ。君が力不足ってわけじゃない。……それとも、心配してくれているのかな?」
急にジャックの声に色っぽさが増した気がして顔を上げると、やはり色男モードのジャックの顔がずいっと近付いてきていた。
「俺の帰りを不安そうに待つ君の姿を見られないのが残念だ。きっと魅力的なんだろうな」
「…あーはいはい、いいから行ってきて」
何だかあほらしくなってきて、私はジャックの言う通り上の階へ向かった。
上の階は物置のようで、座る場所が殆ど無い。
唯一スペースの空いている窓際に座り、空を眺めた。
陰鬱な空だ。リバディーにスパイとして行った日のことを思い出す。
あの時と季節は違うけど、ちょうどこんな天気だったはずだ。
下の階からは暫く大きな音がしていた。
ドタン、だかダキャン、だか誰かが誰かを組み敷く音や、銃声がした。
古い建物だからか、その度大きく揺れた。
何分経っただろう。
急に静かになり、これまた久しぶりに見るキャラメルブロンドの髪の男が呼びに来た。
「アーリスちゃん!もう終わったから来ていいよ」
「…え…何で貴方が……」
誰かが呼びに来るだろうとは思っていたが、来たのは私が予想していた誰とも違う人物だった。
「ぶらりんに位置情報送ってもらって来たら、なーんか面白そうなことになってたからさ。参戦しちゃった」
語尾に星マークがつきそうな勢いでウインクするラスティ君は傷1つ負ってない。
ラスティ君に付いて下の階に下りると、チャロさんが一仕事終えた後のように平然と水を飲んでいた。
この家の水飲めるんだ…。
ジャックとブラッドさんも涼しげな顔で立っている。
警察は見受けられないから、おそらく外に放り出したのだろう。
それにしても、ジャックとブラッドさんが並んでいるのは初めて見たかもしれない。
兄弟とはいえ滅多に会うことのない組み合わせだろう。
そんなことを思いながら見ていると、ジャックがブラッドさんにとんでもないことを言い出した。
「シャロン君から連絡が入ってる。お前と話したいらしい」
「俺と?」
「会ってやってくれないか」
「………」
「危害を加えるつもりはなさそうだ。…それに、少し様子がおかしかった。本当に何か話したいことがあるんだろう」
断るだろうと思ったが、ブラッドさんは少し考える素振りをしてから、
「分かりました。いつですか?」
誘いを簡単に受け入れた。
「指定してきたのは今夜だ。できればどうしても今夜がいいらしい」
「そうですか。では、場所はこちらに指定させてください」
そう言って場所を書くためか部屋にあったメモ用紙を手に取るブラッドさん。
「ちょっと…ほんとに行くの?」
「話を付けてきます。今後彼が無理矢理君を連れ戻そうとしないとも限らないので」
「……」
シャロンが何のつもりなのか分からないから怖い。
私ではなくブラッドさんと話そうとするのは何故なんだろう。
「心配しないでください。何を言われても君を手放しませんから」
おかげさまで、そんな心配はしていない。
寧ろ放してくれと言っても放してくれないだろうと思ってる。
私が気になるのは……シャロンが今どんな気持ちでいるのかだ。
考え込む私に、ジャックが今度はフォックスのことを伝えてきた。
「フォックス君もこっちに向かってるよ。“あんたのためにクリミナルズに入ったのに、勝手に別行動するとはどういうことだ”ってぷんぷんしてたけどね」
「…そりゃ悪かったわね…」
連絡するまでもなく、ジャックもフォックスも私のところへ来てくれるらしい。
私は良い協力者を持ったと思う。
当然ながらフォックスを知らないブラッドさんは首を傾げた。
「フォックス、とは?」
「私の協力者よ。ついでに言うとジャックも私に協力してくれてるの。良ければみんなで力を合わせたいんだけど…駄目かしら?」
「…兄さんと協力しろということですか」
「お願い、このことに関してだけでいいから」
「……君は狡い」
「え?」
「俺が君の頼みを断れるはずがないでしょう」
ああ、そういえばこの人私にベタ惚れなんだった……。
思っていたよりあっさりジャックとの協力を受け入れたブラッドさんに、隣のジャックはクスクスと笑う。



