マイナスの矛盾定義

料理はするみたいだがおやつと言える物をあまり知らないのかもしれない。


僕は如月をショッピングモールという未知の空間に連れ出しているようなもの。



「如月さん、フードコート行ってみよっか」



ちょっと面白くなった僕は、できるだけ色々な物がある場所を昼食の場所にすることにした。
昼時ということもあり混雑していたが、如月は人混みに酔うどころか元気良くそわそわきょろきょろしている。


来る時はあんだけ人混み嫌いって言ってたくせに。



「色々ありすぎて何を買っていいか分からない…」


「僕のおすすめはジャーマンポテトかなぁ」


「じゃあそれにする……」


「お金渡すから、僕の分も頼んでおいてくれる?僕は席取ってくるよ」


「う、うん…」 






席に荷物を置いてから2人分の水を用意して待っていると、しばらくして注文を終えたらしい如月が戻ってきた。


予想した通り、如月はフードコートの仕組みをよく知らなかった。



「これを持っていたら運ばれて来るの?店の人に位置が送信されるの?」


「いや、それが鳴ったら自分で取りに行くんだよ」


「もっと最新の技術を取り入れればいいのに…」



さすが、最先端の生物研究を行ってる研究員の言うことは違うねぇ。


なんて少々嫌みなことを考えてから、僕は気持ちを切り替えた。



そろそろ聞き取り調査に入らせてもらおうかな。


今日ここに来たのは如月に外出させるためであり、研究所の外…つまり他の研究員に聞かれる心配のない場所で情報を引き出すためでもある。



「聞きたいんだけど、管理室の隣にいる女の子って誰?」



まずはあの車椅子の少女についてだ。


実験体なんだろうけど、一体何をさせているのか想像できない。



「…あれはクローン。マーメイドプランとは別の研究の実験体…私は担当してない」



クローンねぇ。


人間のクローンをつくることは現在でも禁止されているが、多くの国が秘密裏に成功しているとも言われている。



「特別なお金持ちの中には、この研究のことを知っている人もいる。そのお金持ちの1人が自分の娘の死体を売ってきて、これでクローンをつくってくれと頼んできたの。資金もその人が出してくれた…。結果的に良いきっかけになったけどね…人間の死体からクローンを作ることに成功したのは、多分私たちの研究所が初めて……」


「へー、金持ちの考えることは分かんないなぁ。クローンを死んだ娘の代わりにしたかったとか?」


「さぁ…?でも、そういう風じゃなかった気がする。暇潰しに面白いことをさせてみようと思ったんじゃない…?最初の頃は様子だけ報告するように言ってきてたけど、途中から飽きたのか連絡してこなくなった…」


「依頼主が興味を無くしてるのに、研究は続行してるの?」


「今は母体と同じような歳で同じような病を発病するのか観察してる…。もっとも、母体よりも不健康なようだけど……歩けなかったり喋れなかったり、母体にはなかった特徴が出てきてるらしい……その原因を探るのが、今後の課題かな」



思っていたよりペラペラ喋ってくれる如月。


自分の担当していない研究のことはどうでもいいのか、マーメイドプランにしか重きを置いていないのか。
「師走さんは“今日の外出が終わったのか”って言ってたんだけど、散歩でもさせてるの?」


「外に出たがる子らしいから……一人で行かせてもちゃんと戻ってくるから、好きにさせてるんだと思う……一応見張りをつけることもあるらしいけど」



と。そこで呼び出しベルが鳴った。



「……取りに行ってくる」



僕が行っても良かったけど、如月が張り切っているようだから好きにさせた。



如月を待つ間考える。


僕が研究員になってから初めて見た人間の実験体はあの子だ。


あの研究所は広いし、僕が見ていない部屋も沢山ある。


他の部屋にも人間の実験体がいるのは予想できる。


その子達も一緒に殺しちゃったらアリスちゃんは悲しむかな。


僕からしたら人間と他の動物の何が違うんだって話だけど。


犠牲になっている人間が可哀相だと言うのなら、マウスも可哀相ってことにならない?


それともアリスちゃんは他の動物も逃がせって言うのかな。


全部逃がしてから爆破ってなると僕1人じゃできない。


……アリスちゃんの望むような結果にすることはできないかもしれない。




トレイを持って戻ってきた如月は、僕の分を僕の方に渡して座り、暫くジャーマンポテトをガン見していた。



なかなか食べ始めないので先に食べることにし、一口二口食べたところでふと如月を見ると、―――フォークを持った如月が泣いていた。



「…え、…どしたの」



さすがに感情を読み取れず素で困惑した。



「……お…」


「…お?」


「おっ……お……おッ……」


「いや、泣いてないではっきり喋ってよ。聞き取れない」


「…おっ……おいしい……」


「…………はぁ?」



え、何この人。美味しくて泣いてんの?


唖然としている僕を余所に、如月はガツガツ勢いよく食べ始める。
「はなたはこうひふのひょくたへるほ?」


「口に物入れて喋んないで、聞き取れないから」


「あなたはこういうのよく食べるの?」


「よくってほどではないけど…」



昔はよく食べていた。というか、食べさせられていた。


食べろ食べろとアランがうるさいから、僕とベルは仕方なく食べていた。


僕たちがまともな食事をするようになったのはアランの影響だし、アランは僕たちの親みたいな存在だった。


ジャーマンポテトはアランの好物だけど、アランの影響で僕も結構好き。




僕は泣きながら食事をするおかしな如月を見ながら、何の確証もないが今なら話してくれるのではないかとふと思った。



「不老不死ってさ、死にたくなっても死ねないんだよね。辛いよね」



だから唐突に“その”話をふっかけた。



「不老不死の人間が不老不死じゃなくなる方法があるとしたら、どんなだと思う?」



食べる手を止めて頬杖をつき、如月を見ながら問う。




「……完全体を元に戻す方法は、私には分からないし想像もできない……」


「完全体じゃないなら?」


「………」



如月はじっと僕を見た。



「それは言えない」



そして食べる手を止めて、ハッキリ言い切った。




馬鹿だなぁ、そんなのアリスちゃんを元に戻す方法を知ってるって言ってるようなもんじゃん。


如月って嘘が吐けない人間なんだ。
「どうしても話してほしいって言ったら?」


「どうしても言えない。研究の邪魔をしようとする人間がこの場にいないとも限らない。聞かれるリスクもある」


「2人きりなら教えてくれるんだ?」


「危険が全くない場所なんてどこにもない。言葉に発するのは危ない」


「えー、僕は聞きたいのになぁ。拷問してでも」


「…あなた、好奇心旺盛なのはいいことかもしれないけど……余計なことにまで興味を持たない方がいい。必要以上に首を突っ込んでこないで」