マイナスの矛盾定義

ところどころ風景画なんかも入ってるけど、殆どが人物の絵だった。



ていうか、やたらとエリックさんとブラッドさんの絵が多いわね。


描きやすいのかしら?



私は沢山ある絵を順に見ていき、ある絵でふと手を止めた。



「この絵、どうしてエリックさんとブラッドさんが抱き合ってるの?」


エリックさんとブラッドさんが寄り添っている絵の次に、エリックさんとブラッドさんが抱き合っている絵があったのだ。




「………」


「………」



返事がないので顔を上げると、チャロさんが白目をむいていた。


え、何?



一体どういうシチュエーションを仮定して描いたのか気になったから聞いただけなんだけど……。
「……見たね?」


「え、ええ…」


「ッアタシの馬鹿……!!!そういう絵はファイルに入れないって決めてたのに、油断して混ぜちゃってたんだ…!!!」


「…えっと…見てはダメだったかしら?」



よく分からないが酷く落ち込んでいるようだ。


しかし次の瞬間チャロさんは非常に真剣な表情になって、何枚かの紙を机に並べはじめた。



「見られたからには仕方ない…」



チャロさんが並べた何枚かの紙には、どれもブラッドさんとエリックさんの2人が描かれている。



「アリスちゃんは俗に言うボーイズラブってご存知?」


「ぼーいずらぶ…?」


「男色をテーマにした漫画や小説のこと。男女のラブストーリーだけじゃなく、そういうのを好む人が最近多いの」


「は、はあ…」



それは知らなかった。


そもそも漫画や小説をあまり読まないなら、流行りに付いていけてない。



「この2人のいいところは、シスコンな兄×その妹の恋人的存在っていう関係性なの!まぁなんか結婚するみたいだから恋人“的”ではなくなっちゃったけど…。最初はお互い信用してなかったけど徐々に認め合い始め、そしていつしか惹かれ合う…そういうロマンスの予感がしない!?」


「そ、そうかしら…?」



チャロさんがガタッと椅子から立ち上がり迫ってくるので、思わず身を退いてしまう。



「一緒にいるだけでいいの!!この2人が隣にいるだけで萌えるの!それ以上のいちゃいちゃはアタシにはまだ早いっていうかアタシまだそこまでハイレベルじゃないから」


「同じ組織の男同士が抱き合ってる絵を描いてる時点でハイレベルだと思うんだけど……」



チャロさんって仕事のできるかっこいい女性ってイメージがあったけど、こんなふうに趣味について熱弁する時もあるのね…なんか、これを言っちゃ失礼かもしれないけど、かわいい。


かわいいけど勢いがありすぎて怖い。
「えっと、つまりはブラッドさんとエリックさんでそのボーイズラブとやらをつくってるの?」


「そう。本人たちにバレたらやばいけどね。…まぁ、ボスは薄々勘付いてるみたいだけど」


「エリックさん、勘付いてて何も言わないの?」


「あの人は人の趣味に口出すタイプじゃないから…。ていうか、こんな後ろめたい気持ち抱えながら描くの嫌だし、いっそのこと今度本人たちの許可を頂こうかな…」



チャロさんがブラッドさんとエリックさんに“あなたたち2人のラブストーリーを描かせてください!”って頼んでる光景を想像して思わず吹き出しそうになったが堪えた。


エリックさんなら戸惑いながら“私の目に付かないところで描いてくれ”って言いそうだし、ブラッドさんなら興味なさげに“勝手にどうぞ”って言いそう。



「まぁ……それもいいんじゃないかしら?」



クスクス笑いながらそう言えば、チャロさんも「アリスちゃんって変な子だね」と笑った。








夜になって眠る頃、ベッドの中でチャロさんが聞いてきた。



「アリスちゃんってぶっちゃけどっちの方が好きなの?」


「どっち…?」


「アラン君とブラッド君」



急にこんな話をされるとは思っていなかったが、聞かれたからには答えなきゃいけない。



「…2人共良い人だと思うけど、恋愛ってよく分からなくて…。そもそも男性にそういう意味で好かれたことがないから、どう対応していいか分からないし」


「あ~、今まで無かったのが一気にモテ期到来みたいな感じ?」


「そうなのかもしれないわ…。好意を持ってもらえて嬉しい気持ちはあるんだけど、同時にちょっと困るの。全然諦めてくれそうにないし…。…まぁ、でも人としては好きよ、あの2人」



今までクリミナルズのメンバーとして言えなかったことだ。


2人共変な人ではあるけど、良いところもあるってことを私は知ってる。



チャロさんが隣でむふっと笑った。



「よかった。意外とちゃんと考えてるんだね」


「え?」


「あの2人ねー、アリスちゃんが来てから随分変わったんだよ」
「変わった…?」


「アラン君は特にね。アリスちゃんが来て暫くしてから、女の子にむやみやたらと手を出すことをしなくなった」


「…アランの噂、よく聞くけど本当なの?秘書に手を出してたとか何とか」


「それはほんと。秘書の方が誘ってアラン君が乗るっていう流れだったらしいけど。ほら、アラン君って優秀組3人の中でも一番色気あるじゃん?秘書に限らず、その色気にやられちゃう子が多いんだよねー」



それはラスティ君にも聞いたことがあるような気がする。



「まぁ、ただ、ね。アラン君って女の子を結構荒っぽく抱くらしくて。最後は誘った女の方が逃げちゃうって感じ。女の子泣かせるのがアラン君の性癖なのかもしれないけど、アタシはそれだけじゃないと思うな。女の子が逃げるまで追い詰めるのは、仕事のストレスを発散させるためだったんだと思う」


「ストレス発散のために女の子を酷い目にあわせるなんて最低ね……」


「まーあの若さだしこんな組織にいるんだし、ストレス発散方法が歪んじゃうのも無理はないかな。アラン君には殺しの仕事が回ってくることも多いしね。何の罪もない人間をやむを得ない事情で殺すことだってあるから。“人殺し”になるのは、仕事としてでも慣れないうちは辛いよ」



チャロさんも指揮官として経験したことがあるのだろう、少し苦しそうな表情をした。



「だからアラン君はずっと女の子に手を出し続けると思ってた。同じことを繰り返して生きていくんだと思ってた。でもそれをやめたってことは、余程何か心境の変化があったんだろうね。アリスちゃんの影響じゃないかな?」



その原因が私だとは思えないんだけど……。


私はアランに何もしてない。
「ブラッド君は昔から優秀だったけど、ずっと心ここにあらずって感じだったの。人間味がなかったっていうか、仕事のできる機械みたいだったっていうか、生きてるけど死んでるみたいな。病的なくらい頻繁に“春”を探しに出かけてたしね。失った宝物を探すみたいに」


「……」


「でも、アリスちゃんが来てからは笑顔を見せるようになったの。それは組織の誰もが気付いたことじゃないかな。あの無表情司令官に表情がある!ってね」



そんなに無表情だったのね……。


私によく見せる笑顔は、以前までは珍しいものだったんだ。