マイナスの矛盾定義

アリスが携帯の画面を確かめたが、案の定繋がらなかった。



バズ君を待つしかないんでしょうか……。


いえ、これは本来私とフォックスさんの2人でするはずだった仕事。そんなことでどうしますの。



「この金庫、壁に埋め込まれているだけでしょう?周りの壁を壊して金庫ごと持って帰ってしまえば簡単ですわ。大きいですし、3人で持たなければなりませんけど」



重たい荷物を持ってくれそうなジャックを連れてきて正解でしたわ。こんなところで役に立つとは。



「大胆な発想するね」



ふふっと面白そうに笑うジャックを他所に、小型爆弾をどこかに入れていなかったかと服の中を探していると、






「“security code : 12328375437”、かな」



「……っ、え!?」



いつの間に後ろにいたのか、バズ君が淡々と言葉を発した。



「バズ先生……、いたのね」



アリスも突然現れたバズ君に驚いている。いや、来るのは分かってましたけれども。



「んー、ほんとはもうちょっとキャシーがどう出るのか見てたかったんだけどね。壁を爆破しようとし始めるんだからさすがに止めなきゃなって。危ないし」


「なっ…ずっと見てましたの!?」


「ずっとってわけじゃないよ。キャシー達がこの部屋へ向かう途中くらいからかな」


「ならさっさと出てきてくださいまし!」


「いや、キャシーのことだから絶対面白いことするだろうなと思って」


「何楽しんでるんですのよ!!」


「まぁまぁ、早く金庫開けなよ。この番号をどこにどう活用するのかはボクには分かんないし。キャシーにしかできないことでしょ?」
そういえばそうだった、と思い金庫に向き直る。


バズ先生が解読してくれた番号を手順通りに打ち込んでいき、金庫の奥でカチッと音がしたのを聞いた。



しかし、金庫は開かない。


二重ロックにしてありますのね。こんな金庫初めて見ましたわ。


でも、少々時間は掛かるがこれくらいなら簡単。


今度こそちゃちゃっと済ませて打ち上げですわ。絶景絶景。





と、その時。





「そこまでだ」



いかにも柄の悪そうな筋肉ムッキムキ男共がぞろぞろと入ってきた。



…まずいですわ…。出口は向こう側にしかない。追い詰められている状況だ。しかも、何人湧いて出てくるんですのこいつら。


いるのに襲ってこなかったのは、私たちを袋小路に入らせたかったからですのね。


予想はできていましたけれど、ここまで人数が多いとは思っていませんでしたわ。



「ふん…女2人にひょろひょろの男2人。楽勝だな」


「その金庫から手を退けろ、痛い目に合いたくなかったらなァ!!」



びぃいいいんと男の声が室内に響き渡る。うるっさいですわ、大きな声を出せばこちらが脅えると思わないでくださいまし。
でも、この状況はさすがにリスクが高い。


武器の数も人の数も向こうが数倍上なのは歴然としている。


また何人入ってくるか分からない状況で逃げ道もない、というのはちょっと…ここは変に相手を刺激せず逃げ道のできるタイミングを窺ってその時パパッとお金を盗んでササッと逃げれば……、



「は?嫌よ。こんな大金諦めるわけないじゃない」



ってアリスぅぅううううう…!


こっちが慎重に動こうとしている時になんという挑発を!



「嬢ちゃん、なかなか強気なことを言うじゃねぇか。今どういう状況か分かってんのか?」


「どういう状況だろうが金は欲しいわ」



アリスぅ!?



「言っときますけどこれ、このまま私たちの報酬になるわけじゃありませんわよ!?組織の資金として提出するんですわ!私たちの報酬はシャロン様からまた別にもらうんですのよ」



金庫を開けるため手を動かしたまま小声でそう伝えたが、



「分かってるわよそんなこと。でも目の前にある金を譲れと言われるのはなんであっても癪だわ」



どうやらアリスにはよく分からないプライドがあるらしい。




というか実はちょっとくらい自分の物にしてから提出する気なんじゃ…アリスならあり得る。
まったく…貴女って人は。



呆れながらもそういうところが面白いと思ってしまっている私は、もう大分アリスに毒されているのだろう。



「こちらは手が離せませんわ」


「分かってる。キャシーは金庫を開けることにだけ集中して」



バズ君が私を庇うようにして背後に立つ。





ジャックとアリスが戦い始めたのか、後ろからは呻き声や殴る音がする。



「焦らなくていいよ。どうせ金庫が開いてもある程度の人数は倒さなきゃいけないんだし、あの2人なら大丈夫でしょ」



同じ部屋で人と人が争っているとはいえ、バズ君がすぐ後ろにいてくれるので安心して金庫に集中することができる。





――そして、思っていたよりも早く再びカチッと音がした時、金庫は開いた。




大容量折りたたみバッグを取り出しお金を詰めていると、敵の連中がざわつき始める。



「お、おい!どうするんだ」

「嘘だろ!?あれをこんなに早く開けるはずが……!」

「一体どんな手を使ったんだあの小娘っ…」



ふん、どんな金庫も仕組みさえ分かってしまえばただの箱と同じですわ。


今回はバズ君の力をお借りしてしまいましたが、別に私1人でもできるんですからね?
「殺せ!あの小娘を殺せ!」



敵の1人がそう叫ぶが、アリスとジャックの壁は越えられないらしく、私には何の被害もない。


たまに銃弾が飛んでくるが当たらない。おそらく撃つ前にアリスかジャックが敵の手元を狂わせているのだろう。




「おい、外にいる奴らだ、外にいる奴らを呼べ!相手は2人なんだろ!?少人数相手に何してるんだあいつら!」



少人数相手に手こずってるのはあなたも同じでしょうに。


あなた方がお相手しているのも実質ジャックとアリスの2人ですし。




そんなことを思いながらお金を袋に詰めていた時、







「あっごっめぇん。外の奴らなら全員投げ飛ばしちゃったぁ」



愛しい声がして、思わず手を止めて振り返った。



あれほどいた敵も今や立っているのは数人となっており、視界が開けている。



部屋の入り口に立っているのは――我らがリーダー、シャロン様。





「手応えがなかったな」


「つっかれたー」



続いてフォックスさん、陽が入ってくる。
「あんまり遅いから退屈で迎えに来ちゃったよぉ。早く帰ろ?」



可愛らしい猫なで声を出すシャロン様だが、早い。早すぎる。外にいた全員をもう倒してしまったというのか。



「まぁ…戦闘力で言えば陽はシャロンと同等らしいし、シャロンが2人いるようなもんよ。それにフォックスも強いんでしょ?早く終わって当然だわ」



私が驚いていることに気付き、そう説明してくるアリス。


当然と言いながらアリスも少々引き気味だ。この速さで終わらせるなんて、一体どんな戦い方をしたらそうなるのか。



…結局シャロン様に手伝わせてしまいましたわ……私もまだまだ未熟です。