そういえば、さっきから私とフォックスさんは敵を殺してばかりだけれど、アリスは殴ったり蹴ったりして戦えなくしているだけで、敵を殺してはいない。
アリスの主な仕事はスパイ活動だ。
殺人現場を見ることは少ないのだろう。
「…怖かった、ですの?」
「……」
黙り込むアリスの平気だと強がろうとしている表情を見て、酷く後悔した。
私たち…そんなことも分からずにアリスの隣で敵をバンバン殺していましたわ。
アリスにとって、その光景はどんなに恐ろしいものだっただろう。
「………ごめんなさ、」
「謝らないで。これは私の弱さよ。犯罪組織にいるんだから、見慣れるべきなんだわ」
アリスはすっと私の手から自分の手を離した。
「気なんて遣わなくていい。キャシーはキャシーのやり方で任務を遂行してちょうだい。――行くわよ」
力強い声を発して、建物へ向かって走り始めるアリス。
まだ思うところはあったが、私も走ってアリスに付いていく。
その後ろ姿が、頼りがいのある物にも、守らなければならない物のようにも感じられた。
――と。いざ建物へ入ろうという時に、ガンッッ!と嫌な音がして、アリスが地面に倒れ込んだ。
「…!…っアリス!!!」
横から出てきた敵に武器で頭部を殴られたのだ。
頭から血を流している。
怒りに任せてアリスを殴った奴を撃ち殺そうとした――が、それよりも早く、そいつの手首を掴んだ男がいた。
無造作なブラックブルーの髪の青年。
「―――その子に何してる?」
空気が凍りつく。
低い声と威圧感が、本気で怒っていることを分からせる。
バズ君達の中で最も早く到着した男・ジャックは、敵の手首に指を食い込ませた。
余程痛いのか、敵は顔を歪ませながら手に持っていた武器を地面に落とす。
「あまり暴力的なことはしたくないんだけどな。……その子に血を流させたなら話は別だ」
ジャックは声を荒げていない。しかし、その落ち着きが恐ろしい。
次の瞬間、ジャックは拳で勢いよく敵の腹部を殴り、呻き声を上げて地面に倒れ込みそうになったその顔面を前方から蹴り飛ばした。
そいつの持っていた武器を拾い、仰向けになっている状態のそいつの首を踏み付け、―――…優しく微笑みかける、
「 Good-bye. 」
別れの言葉を添えて。
――銃声と共に、敵の呻き声はしなくなった。
私はアリスの意識を確認しようと駆け寄る。
「アリス…っアリス!!」
「…そんな泣きそうな顔しないで。問題ないわ、もう治った」
むくっと頭を押さえながら起き上がるアリスは、まだ少し痛そうだ。
「そんなわけ…!」
そんなわけない、と言おうとしてハッとした。
アリスが本当に平気そうだったから。
アリスの身体は普通じゃない。もう治ったとしてもおかしくはない。
自分たちが死んでもアリスは生き続けると思うと、心が締め付けられるように痛くなった。
できることならアリスと同じ時代に死にたい、と悲しい気持ちで願った。
アリスは立ち上がってジャックに質問する。
「バズ先生達とは別々に来たの?」
「あぁ。でも陽くんはもう着いてるよ。フォックス君と一緒に向こうの奴らと戦ってる。バズ君が一番遅いんじゃないか?」
まぁ、あの人は自室にいることが多いし、クリミナルズの本拠地から来ているなら移動時間はそれなりにかかるだろう。
やはり私とアリスで先に金庫を探していた方が時間の節約になりますわね。
「行きますわよアリス」
「ええ。ジャック、あなたは陽たちと外の奴らが中に入ってこないようにしててもらえるかしら」
「…まさか女の子2人で行く気か?」
「女だとか男だとか関係ないでしょう」
「俺には関係あるよ。君たちがどれだけ強くても放っておけない」
「過保護なフェミニストね」
「なんとでも言え。…大事なんだよ」
ジャックがアリスの手を握る。
私たち2人で行くつもりなら離さないということなのでしょう。
なんなんですの、この男。
アリスを一度リバディーに売っておいて今更大事だのなんだのと言われても…私はあの時のこと、まだ根に持っているんですからね?
……でも、今はさっさと中に入りたい。
外の奴らのお相手は陽とフォックスさんだけでも十分過ぎるくらいでしょうし、護衛として中にもう1人付いてくるくらいなら安全を確保できてむしろ好都合。
「そうですわね、あなたは私たちに付いてきてもらいましょう」
少し不服ではあるが、ジャックを連れて中へと入った。
見たところやはりあの奥の部屋が怪しいですわね…。
外の戦闘音がうるさくて敵が近付いてきても聞こえないんじゃないかと思うくらいだけれど、それは敵側も同じなのだろう、私たちが潜入した音に気付いていない。
こうも誰も襲ってこないと罠にはめられているんじゃないかと思ってしまいますわ。
とはいえ実際そうだとしても金庫がこちらへ飛んできてくれるわけじゃありませんし、動かなきゃ始まらない。
私の後を付いてくるアリスはいつ誰が襲ってきても対応できるよう警戒し、殺気を漂わせている。
その緊張をほぐしたいのだろう、ジャックは不意にある提案をしてきた。
「2人共、これが終わったら打ち上げでもしないか?他のみんなも連れてさ」
「打ち上げ…?」
「連れていきたい場所があるんだ。この国にいられるのももう最後だろ」
うーん……。私としては、仕事終わりはさっさと帰って寝るに尽きますわ。
「どんな場所だか知りませんけど、終わったらお腹も空いているでしょうしさっさと帰りませんこと?」
「つれないね。知る人ぞ知る絶景を見せたいんだけどなぁ。その近くに俺のお気に入りのパブがあるんだけど、この国の伝統料理も食べれるよ。食事はそこでするってことでどう?」
…そう言われるとなかなか悪くないご提案ですわね。
シャロン様も一緒なら危険性はないでしょうし、この国での思い出作りにはいいかもしれません。
「そうですわね……。アリスが行くなら行きますけど…」
ちらりとアリスに目をやる。
他のみんなが一緒とはいえ、一度騙されている身のアリスが了承するかどうか…
「もちろん私の食事代はあなたの奢りなのよね?」
……と思ったが、アリスは存外ジャックを許しているらしく、乗り気で返事をした。
アリスが行かないと言うなら私もお断りするつもりでしたけど、問題なさそうですわね。
少し意地悪く微笑むアリスにジャックは苦笑しているが、満更でもなさそうだった。
―――
――――――
結局襲ってくるような奴もおらず、あっさりと金庫のある部屋まで着いてしまった。
なんですの、このザル警備。
バズ君が後から1人でここまで来ると思うと少し心配でもありましたけど、この分なら大丈夫でしょう。
アリスの主な仕事はスパイ活動だ。
殺人現場を見ることは少ないのだろう。
「…怖かった、ですの?」
「……」
黙り込むアリスの平気だと強がろうとしている表情を見て、酷く後悔した。
私たち…そんなことも分からずにアリスの隣で敵をバンバン殺していましたわ。
アリスにとって、その光景はどんなに恐ろしいものだっただろう。
「………ごめんなさ、」
「謝らないで。これは私の弱さよ。犯罪組織にいるんだから、見慣れるべきなんだわ」
アリスはすっと私の手から自分の手を離した。
「気なんて遣わなくていい。キャシーはキャシーのやり方で任務を遂行してちょうだい。――行くわよ」
力強い声を発して、建物へ向かって走り始めるアリス。
まだ思うところはあったが、私も走ってアリスに付いていく。
その後ろ姿が、頼りがいのある物にも、守らなければならない物のようにも感じられた。
――と。いざ建物へ入ろうという時に、ガンッッ!と嫌な音がして、アリスが地面に倒れ込んだ。
「…!…っアリス!!!」
横から出てきた敵に武器で頭部を殴られたのだ。
頭から血を流している。
怒りに任せてアリスを殴った奴を撃ち殺そうとした――が、それよりも早く、そいつの手首を掴んだ男がいた。
無造作なブラックブルーの髪の青年。
「―――その子に何してる?」
空気が凍りつく。
低い声と威圧感が、本気で怒っていることを分からせる。
バズ君達の中で最も早く到着した男・ジャックは、敵の手首に指を食い込ませた。
余程痛いのか、敵は顔を歪ませながら手に持っていた武器を地面に落とす。
「あまり暴力的なことはしたくないんだけどな。……その子に血を流させたなら話は別だ」
ジャックは声を荒げていない。しかし、その落ち着きが恐ろしい。
次の瞬間、ジャックは拳で勢いよく敵の腹部を殴り、呻き声を上げて地面に倒れ込みそうになったその顔面を前方から蹴り飛ばした。
そいつの持っていた武器を拾い、仰向けになっている状態のそいつの首を踏み付け、―――…優しく微笑みかける、
「 Good-bye. 」
別れの言葉を添えて。
――銃声と共に、敵の呻き声はしなくなった。
私はアリスの意識を確認しようと駆け寄る。
「アリス…っアリス!!」
「…そんな泣きそうな顔しないで。問題ないわ、もう治った」
むくっと頭を押さえながら起き上がるアリスは、まだ少し痛そうだ。
「そんなわけ…!」
そんなわけない、と言おうとしてハッとした。
アリスが本当に平気そうだったから。
アリスの身体は普通じゃない。もう治ったとしてもおかしくはない。
自分たちが死んでもアリスは生き続けると思うと、心が締め付けられるように痛くなった。
できることならアリスと同じ時代に死にたい、と悲しい気持ちで願った。
アリスは立ち上がってジャックに質問する。
「バズ先生達とは別々に来たの?」
「あぁ。でも陽くんはもう着いてるよ。フォックス君と一緒に向こうの奴らと戦ってる。バズ君が一番遅いんじゃないか?」
まぁ、あの人は自室にいることが多いし、クリミナルズの本拠地から来ているなら移動時間はそれなりにかかるだろう。
やはり私とアリスで先に金庫を探していた方が時間の節約になりますわね。
「行きますわよアリス」
「ええ。ジャック、あなたは陽たちと外の奴らが中に入ってこないようにしててもらえるかしら」
「…まさか女の子2人で行く気か?」
「女だとか男だとか関係ないでしょう」
「俺には関係あるよ。君たちがどれだけ強くても放っておけない」
「過保護なフェミニストね」
「なんとでも言え。…大事なんだよ」
ジャックがアリスの手を握る。
私たち2人で行くつもりなら離さないということなのでしょう。
なんなんですの、この男。
アリスを一度リバディーに売っておいて今更大事だのなんだのと言われても…私はあの時のこと、まだ根に持っているんですからね?
……でも、今はさっさと中に入りたい。
外の奴らのお相手は陽とフォックスさんだけでも十分過ぎるくらいでしょうし、護衛として中にもう1人付いてくるくらいなら安全を確保できてむしろ好都合。
「そうですわね、あなたは私たちに付いてきてもらいましょう」
少し不服ではあるが、ジャックを連れて中へと入った。
見たところやはりあの奥の部屋が怪しいですわね…。
外の戦闘音がうるさくて敵が近付いてきても聞こえないんじゃないかと思うくらいだけれど、それは敵側も同じなのだろう、私たちが潜入した音に気付いていない。
こうも誰も襲ってこないと罠にはめられているんじゃないかと思ってしまいますわ。
とはいえ実際そうだとしても金庫がこちらへ飛んできてくれるわけじゃありませんし、動かなきゃ始まらない。
私の後を付いてくるアリスはいつ誰が襲ってきても対応できるよう警戒し、殺気を漂わせている。
その緊張をほぐしたいのだろう、ジャックは不意にある提案をしてきた。
「2人共、これが終わったら打ち上げでもしないか?他のみんなも連れてさ」
「打ち上げ…?」
「連れていきたい場所があるんだ。この国にいられるのももう最後だろ」
うーん……。私としては、仕事終わりはさっさと帰って寝るに尽きますわ。
「どんな場所だか知りませんけど、終わったらお腹も空いているでしょうしさっさと帰りませんこと?」
「つれないね。知る人ぞ知る絶景を見せたいんだけどなぁ。その近くに俺のお気に入りのパブがあるんだけど、この国の伝統料理も食べれるよ。食事はそこでするってことでどう?」
…そう言われるとなかなか悪くないご提案ですわね。
シャロン様も一緒なら危険性はないでしょうし、この国での思い出作りにはいいかもしれません。
「そうですわね……。アリスが行くなら行きますけど…」
ちらりとアリスに目をやる。
他のみんなが一緒とはいえ、一度騙されている身のアリスが了承するかどうか…
「もちろん私の食事代はあなたの奢りなのよね?」
……と思ったが、アリスは存外ジャックを許しているらしく、乗り気で返事をした。
アリスが行かないと言うなら私もお断りするつもりでしたけど、問題なさそうですわね。
少し意地悪く微笑むアリスにジャックは苦笑しているが、満更でもなさそうだった。
―――
――――――
結局襲ってくるような奴もおらず、あっさりと金庫のある部屋まで着いてしまった。
なんですの、このザル警備。
バズ君が後から1人でここまで来ると思うと少し心配でもありましたけど、この分なら大丈夫でしょう。



