辺りは静まりかえっているが、奥に何がいるか分からない不気味さがある。
それに、音はしないが人の気配はするのだ。それも結構多い。
シャロン様が私に協力者をつけたというだけあって、なかなか難しい任務なのかもしれませんわ。普段なら盗みの仕事は私1人で行かせますもの。
そこら中瓦礫の山だ。ここも放置されている地域の1つなのだろう。
足下に気を付けて歩きながらも、中心にある建物を観察する。
じーっと見ていると、ちらほらと何かが動くのが見えた。やっぱり人がいるのだ。
古い建物のようですし、その気になればどこからでも入れますわね。盗むだけなら楽勝ですわ。
私はフォックスさんに栄養調整食品の部類に入るクッキーを渡した。お昼までに帰れる保証はない。
フォックスさんは「ありがとな」と素直に受け取り、もぐもぐと食べ始める。なんだか子供みたいな食べ方だ。
…この方、案外親しみやすいのかもしれませんわね。
「そういえばどうしてその歳で私たちの組織に入ろうと思いましたの?決してだめではありませんけれど、珍しいことですのよ」
フォックスさんのことを何も知らないので、この際少し聞いてみようかと思った。
「アリスと協力するには近くにいる方が何かと便利なんでな。別に、あんたらの組織に拘りがあるわけじゃない」
「アリス…?アリスの知り合いですの?」
「あの研究を止めるために協力関係を結んでる」
「えっ…」
あの研究を止める?アリスと?
外部から最近入ってきた新人が、研究のことを知っているなんて。
「“あの研究”と言っただけでその表情か。知ってるんだな」
ふむ、とフォックスさんが頷いた。今のは私が知っているか知っていないのか確認するためでもあったのだろうか。
「…あなたこそ、どこで知りましたの?アリスと昔からの知り合い、というわけではなさそうですわよね」
怪しい。何が目的でアリスと協力しているのか想像できない。
私が訝しげに見ているうちにフォックスさんはクッキーを食べ終わり、ゴミをくしゃっと丸めて地面にぽい捨てし、言った。
「おれが未来から来た、って言ったらどうする」
「…はい?」
馬鹿にされているんだろうか。
「映画の観すぎですわ」
「信じてくれなくて構わない。こっちじゃまだ時間移動用の機械の材料すら発見されていないんだからな」
真顔で言うフォックスさんは、冗談を言っているようには見えない。
「時間移動の機械って…つ、つまりタイムマシーンのようなものを使ってここに来たと言いたいんですの?」
「タイムマシーンなんてお気楽なもんじゃない。一度使えば世界が分裂し、使用者は元の世界に二度と戻れないと言われている。実際おれは戻れていない。もっと待てば戻る方法が解明されていたかもしれないが、おれのいた場所じゃそんな余裕はなかった。所詮よく分かりもしない技術を無理に使っているだけだ。どんなことが起こるか分からない」
話の内容が壮大すぎて付いていけない。
どこからつっこめばいいのか。
「大して先の話じゃないさ。たった数十年後だ。世界は大きく変わった。史上最悪の大規模な戦争が起きた。まぁ、おれはそれを止めに来たんだが」
「止めに来たって…1人で?」
そういうのって普通仲間を引き連れてくるものでしょう!?
「数人が同時に同じ時間まで飛べるほど細かい調節のできる機械じゃない。1人でしか来れないし、ぴったり望む時間に来れるわけじゃない。同じ世界にいた奴らに助けを求めるのは無理だ。だから協力者がもうちっと欲しいんだが……」
ちらり、と私を見てくるので慌てて首を横に振った。
「そ、そんなたいそうなことに手を出せませんわ。からかってるんですの?」
そもそも未来から来ただのなんだのと、初めて仕事で一緒になった相手に言う話じゃないでしょう。やっぱり信じられない。
「あんたならちょうどよさそうだ。研究のことを知っているなら説明しなくて済むし、優秀な戦力になる」
「自称未来人に協力なんて、怖くてできませんわ」
「なぜだ?このままいけばもっと恐ろしいことが起こるのに」
「脅してるんですの?」
「脅しじゃない、事実だ。不老不死の増加によって世界のバランスは崩れた。あらゆる面でガタガタにな」
「でも…不老不死って理想的じゃありません?今病気で苦しんでいる人達も救われますのよ?」
「そう都合良く不老不死の薬で病気が治るわけじゃない。病気を治す技術はそれとはまた別に発達しているさ。不死の薬じゃむしろ悪化させる可能性が高い。病人に使うのは非常に危険だ」
「そう…ですの」
おっといけない、納得してしまいそうになってしまった。
「その話からすると、あなたは最近この世界に来たということでよろしくて?あ、別に信じてるわけじゃありませんわよ。仮にそうであるということにして話を進めようとしているだけですわ」
「そう最近じゃない、随分前だ。最初は何をすればいいのか分からなくて、とりあえず軍隊に入った。元の世界でも軍人をやっていたし、職に就かないとうまく生きていけないんでな。結果的に、その軍隊にいたかつての上官がマーメイドプランの存在を死ぬ間際におれに伝えた。偶然とはいえ、暗中模索していたおれにとってはありがたいことだ。おれのいた世界じゃ不老不死の起源はよく解明されてなかったからな。なんせ記録がない」
うーん…言いたいことは分かるのですけれど、未来人ってところがやっぱり信じがたいですわね…。でも不老不死なんてものが存在する世の中ですし、未来人がいてもおかしくは…いや、おかしいおかしい。
というか。
「そんなこと、私なんかに言っていいんですの?」
「さほど隠すべき事情だとは思っていない。それに、時間がないんでな。今は一刻も早く協力者を増やす必要がある。あぁ、アリスには言わないでくれよ?余計なプレッシャーをかけたくないんだ。19の少女にはこんな話、荷が重いだろ」
18の少女である私には荷が重いと思わないんですかね…?
まぁ、アリスだって自分の存在が数十年後の未来に影響するなんて知りたくないでしょうし、フォックスさんに言われなくたって黙ってますけれど。
今日初めて組んだ仕事仲間に話すなんて、余程焦っているのか馬鹿なのか。
「…任務中だってのに少し話をしすぎたな。先へ進むか。この話は後だ」
フォックスさんは自分から長話をしておいて尤もらしい顔で歩き始める。
任務の前にそんな話をされると気になるじゃありませんか…!この人が未来人…?どこからどう見ても普通の人間だ。やっぱりからかわれてるんだろうか…。
「―――てめェら、そこで何してる!!侵入者か!?」
ってしまった!早速見つかった…!
話し込んでいて人が近付いてきた気配に気付けなかった。しかもこの男、何やら強そうな装備だ。
――一旦ここから離れようと踏み出すよりも先に、一瞬でフォックスさんが男を蹴り飛ばし、武器を奪って撃ち殺した。
それに、音はしないが人の気配はするのだ。それも結構多い。
シャロン様が私に協力者をつけたというだけあって、なかなか難しい任務なのかもしれませんわ。普段なら盗みの仕事は私1人で行かせますもの。
そこら中瓦礫の山だ。ここも放置されている地域の1つなのだろう。
足下に気を付けて歩きながらも、中心にある建物を観察する。
じーっと見ていると、ちらほらと何かが動くのが見えた。やっぱり人がいるのだ。
古い建物のようですし、その気になればどこからでも入れますわね。盗むだけなら楽勝ですわ。
私はフォックスさんに栄養調整食品の部類に入るクッキーを渡した。お昼までに帰れる保証はない。
フォックスさんは「ありがとな」と素直に受け取り、もぐもぐと食べ始める。なんだか子供みたいな食べ方だ。
…この方、案外親しみやすいのかもしれませんわね。
「そういえばどうしてその歳で私たちの組織に入ろうと思いましたの?決してだめではありませんけれど、珍しいことですのよ」
フォックスさんのことを何も知らないので、この際少し聞いてみようかと思った。
「アリスと協力するには近くにいる方が何かと便利なんでな。別に、あんたらの組織に拘りがあるわけじゃない」
「アリス…?アリスの知り合いですの?」
「あの研究を止めるために協力関係を結んでる」
「えっ…」
あの研究を止める?アリスと?
外部から最近入ってきた新人が、研究のことを知っているなんて。
「“あの研究”と言っただけでその表情か。知ってるんだな」
ふむ、とフォックスさんが頷いた。今のは私が知っているか知っていないのか確認するためでもあったのだろうか。
「…あなたこそ、どこで知りましたの?アリスと昔からの知り合い、というわけではなさそうですわよね」
怪しい。何が目的でアリスと協力しているのか想像できない。
私が訝しげに見ているうちにフォックスさんはクッキーを食べ終わり、ゴミをくしゃっと丸めて地面にぽい捨てし、言った。
「おれが未来から来た、って言ったらどうする」
「…はい?」
馬鹿にされているんだろうか。
「映画の観すぎですわ」
「信じてくれなくて構わない。こっちじゃまだ時間移動用の機械の材料すら発見されていないんだからな」
真顔で言うフォックスさんは、冗談を言っているようには見えない。
「時間移動の機械って…つ、つまりタイムマシーンのようなものを使ってここに来たと言いたいんですの?」
「タイムマシーンなんてお気楽なもんじゃない。一度使えば世界が分裂し、使用者は元の世界に二度と戻れないと言われている。実際おれは戻れていない。もっと待てば戻る方法が解明されていたかもしれないが、おれのいた場所じゃそんな余裕はなかった。所詮よく分かりもしない技術を無理に使っているだけだ。どんなことが起こるか分からない」
話の内容が壮大すぎて付いていけない。
どこからつっこめばいいのか。
「大して先の話じゃないさ。たった数十年後だ。世界は大きく変わった。史上最悪の大規模な戦争が起きた。まぁ、おれはそれを止めに来たんだが」
「止めに来たって…1人で?」
そういうのって普通仲間を引き連れてくるものでしょう!?
「数人が同時に同じ時間まで飛べるほど細かい調節のできる機械じゃない。1人でしか来れないし、ぴったり望む時間に来れるわけじゃない。同じ世界にいた奴らに助けを求めるのは無理だ。だから協力者がもうちっと欲しいんだが……」
ちらり、と私を見てくるので慌てて首を横に振った。
「そ、そんなたいそうなことに手を出せませんわ。からかってるんですの?」
そもそも未来から来ただのなんだのと、初めて仕事で一緒になった相手に言う話じゃないでしょう。やっぱり信じられない。
「あんたならちょうどよさそうだ。研究のことを知っているなら説明しなくて済むし、優秀な戦力になる」
「自称未来人に協力なんて、怖くてできませんわ」
「なぜだ?このままいけばもっと恐ろしいことが起こるのに」
「脅してるんですの?」
「脅しじゃない、事実だ。不老不死の増加によって世界のバランスは崩れた。あらゆる面でガタガタにな」
「でも…不老不死って理想的じゃありません?今病気で苦しんでいる人達も救われますのよ?」
「そう都合良く不老不死の薬で病気が治るわけじゃない。病気を治す技術はそれとはまた別に発達しているさ。不死の薬じゃむしろ悪化させる可能性が高い。病人に使うのは非常に危険だ」
「そう…ですの」
おっといけない、納得してしまいそうになってしまった。
「その話からすると、あなたは最近この世界に来たということでよろしくて?あ、別に信じてるわけじゃありませんわよ。仮にそうであるということにして話を進めようとしているだけですわ」
「そう最近じゃない、随分前だ。最初は何をすればいいのか分からなくて、とりあえず軍隊に入った。元の世界でも軍人をやっていたし、職に就かないとうまく生きていけないんでな。結果的に、その軍隊にいたかつての上官がマーメイドプランの存在を死ぬ間際におれに伝えた。偶然とはいえ、暗中模索していたおれにとってはありがたいことだ。おれのいた世界じゃ不老不死の起源はよく解明されてなかったからな。なんせ記録がない」
うーん…言いたいことは分かるのですけれど、未来人ってところがやっぱり信じがたいですわね…。でも不老不死なんてものが存在する世の中ですし、未来人がいてもおかしくは…いや、おかしいおかしい。
というか。
「そんなこと、私なんかに言っていいんですの?」
「さほど隠すべき事情だとは思っていない。それに、時間がないんでな。今は一刻も早く協力者を増やす必要がある。あぁ、アリスには言わないでくれよ?余計なプレッシャーをかけたくないんだ。19の少女にはこんな話、荷が重いだろ」
18の少女である私には荷が重いと思わないんですかね…?
まぁ、アリスだって自分の存在が数十年後の未来に影響するなんて知りたくないでしょうし、フォックスさんに言われなくたって黙ってますけれど。
今日初めて組んだ仕事仲間に話すなんて、余程焦っているのか馬鹿なのか。
「…任務中だってのに少し話をしすぎたな。先へ進むか。この話は後だ」
フォックスさんは自分から長話をしておいて尤もらしい顔で歩き始める。
任務の前にそんな話をされると気になるじゃありませんか…!この人が未来人…?どこからどう見ても普通の人間だ。やっぱりからかわれてるんだろうか…。
「―――てめェら、そこで何してる!!侵入者か!?」
ってしまった!早速見つかった…!
話し込んでいて人が近付いてきた気配に気付けなかった。しかもこの男、何やら強そうな装備だ。
――一旦ここから離れようと踏み出すよりも先に、一瞬でフォックスさんが男を蹴り飛ばし、武器を奪って撃ち殺した。



