「その子は僕が買った奴隷、大切な商品だ。君のしようとしていることは――僕の所有財産の窃盗に他ならない」
私を抱き締めるエリックの腕の力が強くなる。
「何者かは知らないが、随分面倒なことをしてくれたな。だが、警察がここへ来るまで時間が掛かることは知っている。少し遅かったな。僕は他の従業員を捨ててここを出る。ただ、その一番使える奴隷だけは連れて行こうと思ってね」
今まで“奴隷”という言葉に何も思うことの無かった私が、酷く心の痛みを感じた。
「ここが君の居場所だ。戻っておいで、アン」
この数年間、経営者の命令に背く事は無かった。
経営者の元へ戻って何かされる恐怖と、経営者に刃向かい仕置きされる恐怖の間で――エリックの腰に付けられたナイフポーチが目に入り――どくんと心臓が鳴る。
どくんどくんどくん、と心臓の音は早くなってゆく。
――『刃物を持つとね、魔が差すんだよ』
そう言ったのは、誰だったか。
――『だからやめておきなさい』
気付けば、私はエリックのポーチから素早くナイフを取り出し、経営者に向かって走り出していた。
ドスッという感触がした。
音がしたのではない。
そういう、感触がした。
人の肉を感じた。
不思議と恐怖を感じなかった。
そんな自分を恐ろしく思った。
憎悪が私を埋め尽くしていた。
――今なら殺れる。私の手で、この男の人生を終わらせることができる。憎い。憎い。憎い。この男が憎い。今まで私を奴隷として扱ってきた連中が憎い。殺してやりたい。めちゃくちゃになればいい。死体として焼き払ってしまいたい。それでもまだ足りない。私と同じだけの苦しみを味わえばいい。後悔させてやりたい――。
私を抱き締めるエリックの腕の力が強くなる。
「何者かは知らないが、随分面倒なことをしてくれたな。だが、警察がここへ来るまで時間が掛かることは知っている。少し遅かったな。僕は他の従業員を捨ててここを出る。ただ、その一番使える奴隷だけは連れて行こうと思ってね」
今まで“奴隷”という言葉に何も思うことの無かった私が、酷く心の痛みを感じた。
「ここが君の居場所だ。戻っておいで、アン」
この数年間、経営者の命令に背く事は無かった。
経営者の元へ戻って何かされる恐怖と、経営者に刃向かい仕置きされる恐怖の間で――エリックの腰に付けられたナイフポーチが目に入り――どくんと心臓が鳴る。
どくんどくんどくん、と心臓の音は早くなってゆく。
――『刃物を持つとね、魔が差すんだよ』
そう言ったのは、誰だったか。
――『だからやめておきなさい』
気付けば、私はエリックのポーチから素早くナイフを取り出し、経営者に向かって走り出していた。
ドスッという感触がした。
音がしたのではない。
そういう、感触がした。
人の肉を感じた。
不思議と恐怖を感じなかった。
そんな自分を恐ろしく思った。
憎悪が私を埋め尽くしていた。
――今なら殺れる。私の手で、この男の人生を終わらせることができる。憎い。憎い。憎い。この男が憎い。今まで私を奴隷として扱ってきた連中が憎い。殺してやりたい。めちゃくちゃになればいい。死体として焼き払ってしまいたい。それでもまだ足りない。私と同じだけの苦しみを味わえばいい。後悔させてやりたい――。



