魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 乾いた笑いを女は聞かせ、かちゃかちゃと取り上げた瓶を、ザドの目の前まで持って来る。その中身が絨毯の上にぽとりと垂れた。するとたちまち、赤い毛の一部が黒く染まり煙が立つ。かすかに、先程と同じ薬臭い匂いが薫った。

「まさか……ど、く……!?」
「美味しかったでしょう? 最後のお酒は……」

 女の言葉に身の危険を感じ、ザドは胃の中身を吐き出そうとした。しかし、そんな行動すらままならず、口から涎を垂らしながら震えることしかできない。

 その内に、女はザドの背中に跨ると、ザドによく見えるよう、その手に握るものを翳した。

「おい……待て!」

 小ぶりだったが鋭く研がれたナイフに、自分の怯え顔が映る。それがゆっくりと喉元に近付き、ザドはついに懇願した。

「ま……待て! どうしてだ! そんなことをしても意味はねぇ! 俺は今からお前に預けた金を使って再び成り上がるんだよ! そうすりゃ、お前だってもっと贅沢できるだろうが! そうだ……数年後に今預かってる金の二倍……いや、三倍をくれてやると約束する。どうだ、そうすりゃてめぇらなら一生生きていくだけの富が手に入る!」