魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 ――動けなかった。

「な……んだ?」

 力が抜けたように重くなり、ザドの身体はずるずるとソファの上を滑り落ちた。
 息をすることすら億劫に感じながら、どうにか体を起こそうともがくものの、首を捻るのが精一杯だ。すると、目の前に女の足が見えた。

「お……い、てめぇ、なにしてやがる。さっさと……俺を、起こせ! 医者を……」
「ふふっ」

 必死に振り絞った声にかすかに応じたのは、妙に冷めた笑い。そこからは、今まで彼が他に向けて来た嘲りと同様の香りが匂い、ザドはぞっとした。
 次いでそんなことが許されるわけがないと、彼は憤激する。

「なにを……笑ってる! てめぇ、さっさと、俺の……言う、通りに……!」
「あはははは。まだ気づかないのですか」