魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 彼にとって人とは、利用するための駒。そして、この世界は金と権力が支配する孤独な遊戯(ゲーム)だ。自分より下にいる者は服従を誓わせて踏み台にし、上にいる者はごまをすり、足を掴んでいつしか引きずり下ろす。どこまでいってもその繰り返しでしかない。

 ――寂しい? 誰かが自分の傍にいて欲しい? 

 他者とそんな関係を築くなど、そこから這い上がれない底辺共が、自分を慰めるためにやっている傷の舐め合いに過ぎない。
 みっともなくて怖気がする。そんなことをしているから裏切られ奪われ、そこから一生這いあがれないのだ。

(俺はそうした屑共を力により支配し、従えて搾り取ったものを使って、隙を見せたやつらの背中を突いて殺す。一生それを続けて、登れるだけ登り詰めてやる。そうして……)

 ――そうして……?

 その先がなにに繋がっているのかザドは考えかけた。だが、その時には女が戻ってきており、目の前に置かれた食事を前に、膨れ上がった期待がささやかな疑問をかき消してしまう。

 だが、慌てて戻った女が盆に乗せた什器の中に入れていたのは、食事というにはあまりにも貧相な取り合わせだった。