魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「兄ちゃんよぉ。あんたの言ってたことが嘘だが本当だが知らんが、もうそうなっちまえば貴族だろうと只人に変わりねぇってわけだ。さあ、この(のこぎり)でぶった切られたくなかったら、とっとと他所で物乞いでもしにいくんだな」
「そうだそうだ、仕事の邪魔するやつは容赦しねぇぞ」
「や、やめろ……ひぃっ!」

 ザドは続々と現れた大工たちにすごまれて、サンジュに受けた傷の痛み思い出し、命からがらそこから逃げ出してゆく。

(くそ、なにからなにまでうまく行かねぇ。どうなってやがるんだ……)

 生まれて初めて虐げられた気分になりながら、ザドは父たちの居所を通りを歩く人々に尋ねるか迷ったが、彼のプライドがそれを許さなかった。そして交渉に使うような小金も懐にはない。食事すらままならない、握ったことのない卑賎が手の中にはあるだけだ。
 庶民の安っぽい屋台に並ぶ品物すら手を出せず、空きっ腹を抱えて唾を飲むしかない状態……。

 だが、ただひとつ彼には手段が残されていた。